進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!
ニュースで見かけるようになった「ビットコイン」という言葉。仮想通貨であるこのビットコインの取引所が経営破綻したことで、アメリカを中心にこの存在をめぐる議論が巻き起こっている。その仕組みと正体を、ここで探ってみよう。
Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2014年 2/25号 [ビットコインの可能性](阪急コミュニケーションズ)
仮想通貨ビットコインが話題騒然だ。世界最大のビットコイン取引所だったマウントゴックス社が何者かのサイバー攻撃を受けて保有していたビットコインを消失させてしまい、経営破綻した。中国などビットコイン取引を禁止する国も現れ、価値は乱高下。「ビットコインはそもそも通貨となり得るのか」という議論がネット上では沸騰している。
仮想通貨と名づけられているが、ビットコインは政府が発行している通貨ではない。どちらかといえば、買い物に使う「ポイント」に近い存在と捉えたほうがわかりやすいかもしれない。たとえばTSUTAYAのTポイントは日本国内ではたいへん普及していて、さまざまな提携先のショップで金券のように買い物に利用することができる。ビットコインはこのポイントをさらに進化させ、国をまたいで簡単に送金したり、実在する専用ATMを使ってドルなどに出金することもできるようになっている。
ビットコインを発明したのは、サトシ・ナカモトという日本人名を名乗る謎の人物だ。ネット上にP2Pを使って暗号化されたシステムを構築し、このシステムにソフトウェアを使ってアクセスすると、金銀を採掘するのと同じように少しずつビットコインのデータを取り出せるようになっている。
この採掘ソフトウェアが動く仕組みは、こうだ。ビットコインのすべての取引は、P2Pで分散されたサーバ上に保管されている。このすべての取引がきちんと矛盾なく行われていることを検証する方法として、巨大な計算量が必要な数学的な問題を解くことが求められる。この問題を解けば解くほど、取引がさらに強く検証されることになり、これによってビットコイン自体の信頼度がさらに高まっていくという仕掛けになっているのだ。巧みな考え方だ。
そしてこの「採掘」は、一度に大量のビットコインを取り出すことはできない。また採掘量にも限界があり、埋蔵されているのは合計2100万枚で、今のところ1200万枚が取り出されているという。
一定の日時の間には少しずつしか取り出せないため、希少なゴールドを採掘するのと同じように、希少価値を生み出す要因になっている。話題になっていなかった初期の頃は、ソフトを使えば個人でもたくさん取り出せたようだが、いまは世界中の多くの人が採掘しようとしているため、一人あたりの採掘量はたいへん少なくなっている。現段階では個人がパソコンを使って採掘しても、そのパソコン投資の価値に見合うだけの採掘量にはならないまでになっている。
さて気になるのは、このビットコインは通貨の代替物になり得るのだろうか? という深遠なテーマだ。