関係者へのロビー活動が何より大切 海外国際映画祭、大賞の"狙い方"

――絶大な権威を持つアメリカのアカデミー賞。そしてドイツのベルリン、フランスのカンヌ、イタリアのベネチアでの三大映画祭における各賞をはじめ、世界各地で開催されている国際映画祭。世界的な著名監督たちがしのぎを削るそうした場で賞を獲得するには、どのような戦略が必要とされるのか? 徹底解剖!

『そして父になる』(アミューズソフトエンタテインメント)

 3月2日(日本時間3日)に行われるアカデミー賞の授賞式。それに合わせて、日本でもそのノミネート作品が続々と公開され始めている。賞の行方を気にしているのは、映画ファンだけではない。配給各社も、戦々恐々としながら賞の行方を見守っていることだろう。なぜなら、授賞式の結果が個々の作品の観客動員に大きな影響を及ぼすことになるからだ。

 アカデミー賞をはじめ、映画界には集客、あるいは日本公開の有無を左右する重要な要素のひとつとして、さまざまな映画賞が存在する。その最たるものは、国際映画祭における賞だろう。世界三大映画祭と呼ばれるカンヌ、ベルリン、ベネチアを筆頭に、世界各地で行われている数々の国際映画祭。その年にアメリカ国内で公開された映画を対象に、映画関係者の組合員の投票によって選出される“お祭り”的なニュアンスの強いアカデミー賞は別として、一般に国際映画祭は、未公開の作品を世界中から集め、映画祭が選出した審査員団が評価、賞を与えるという“先物買い”的なニュアンスが強い。それだけに、優れた作品をどれだけ集められるか、そしてどの国のどの作品に賞を与えるかは、映画祭そのものに対する評価に直結する重要な要素となっていくのである。

 よって、先の三大映画祭をはじめ、世界的に大きな影響力を持った映画祭に出品される作品の選定基準は、非常にシビアなものとなる。映画祭の“看板”ともいえる長編映画のコンペティション部門に選ばれるのは、だいたい20作品程度。世界からよりすぐりの作品が集結する中、そこに名を連ねるのは並大抵のことではない。では、その出品から受賞に至るまでの流れとは、どのようなものなのか? 映画配給大手アスミック・エースの元取締役で、20年以上の長きにわたって映画宣伝プロデューサーを務めてきた竹内伸治氏はこう語る。

「基本的には、まず映画祭の事務局に出品の申請をするのですが、すでに知られた著名監督の作品などでもない限り、見向きもされない。よって、出品の前段階で、出品作を選定しているその映画祭のディレクターや作品選定者の知己を得て、事前にロビー活動をすることが非常に重要になってきます」

 その映画祭に縁のある監督や俳優が選ばれることも多い、映画祭の審査員団。その人選にも大きな影響力を持つディレクターは、制作会社や配給会社、批評家、あるいは監督や俳優、そして時にはまったくの別業種出身者であることさえある。それだけにその個性は強く、好みもバラバラなのだとか。そんな多種多様なディレクターたちが集う場としての国際映画祭の役割を、中堅映画配給会社アンプラグドの代表を務める加藤武史氏はこう語る。

「各映画祭のディレクターたちは、とにかく海外の映画祭をグルグル回っています。そのため、最終的には映画祭に出品し受賞するため、配給会社の宣伝マンなど各国の映画関係者は、まずは彼らを捕まえ、自分がかかわっている映画を売り込む必要がある。売り込むためにはまず彼らと親しくなる必要があり、そのためには、そもそも自分は何者であって、どんな作品にどうかかわっているのかを知ってもらうことがとても重要になってくる。国際映画祭というのは、世界中の映画が一堂に会する場であると同時に、世界中の映画関係者がこうしたコネクションづくりに励む社交の場でもあるわけです」

 こうした社交の場は、何も映画祭に限った話ではない。例えば東宝傘下の配給会社・東宝東和の創業者として知られる川喜多長政にちなむ川喜多財団(川喜多記念映画文化財団)は海外ディレクターを頻繁に招いているし、そこで彼らに日本映画やその監督らを売り込むといったことも行っている。

「日本で洋画が見られなくなった、邦画もエンタメ色の強い作品ばかりになったなどとよく批判気味に語られますが、それはどこの国も同じです。まだまだ日本は、マイナー作も含めてこれだけ多様な国の映画を見られるという意味では非常に貴重な国。そのため、各映画祭のディレクターにとっても、日本市場や日本映画の定点観測というのは非常に重要な行為なんです」(加藤氏)

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