――「R18+」といったように、映画にも表現に関するレーティングがあり、あまりにも凄惨なバイオレンスシーンはその対象となる。規制がかかれば、作品の上映にも影響があるわけだが、それでもバイオレンスシーンは描かれ続ける。規制と表現の狭間から飛び出してきた、恐るべきバイオレンスシーンとは?
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バイオレンス映画マトリクス・グラフ
韓国映画のバイオレンスは精神的にくる!?
バイオレンスシーンは、映画表現になくてはならないモノ。その作品が持つ性質を理解すればより映画を観るのが楽しくなるハズ。ここでは、編集部の主観込みでバイオレンス映画をマッピングした。その日の気分に合わせて映画チョイスしていただきたい。
※グロ注意『プライベート・ライアン』は、開始10分からトラウマシーン続出!
『仁義なき戦い』【1】シリーズのドス(短刀)を使った壮絶な殺傷、『レザボア・ドッグス』【2】の剃刀による耳そぎ、韓国映画『オールド・ボーイ』【3】の抜歯や舌切り──。映画作品における暴力的な(バイオレンス)描写が、古今東西の名作・問題作を彩ってきたのは、いうまでもない。映画ライターとして「映画秘宝」(洋泉社)などで執筆するジャンクハンター吉田氏は、レーティングも厳しい昨今、特に印象に残ったバイオレンス映画として、2本を薦めてくれた。インドネシア映画『ザ・レイド』【4】と『ジャッジ・ドレッド』(12年)だ。
「『ザ・レイド』は、打撃がちゃんとリアルヒットしている。演舞的な殺陣が特徴であるジャッキー・チェン主演作の流れもくんではいるが、ジャッキー映画と違ってここまでバイオレンス度が高いのは、(『男たちの挽歌』など)80年代のジョン・ウー作品にみられるハードな銃撃戦の影響もある」(吉田氏)
また『ジャッジ・ドレッド』は、95年に公開されたシルベスター・スタローン主演作のリメイク。クライマックスの銃撃戦では、発射された弾丸がスローモーションで人間の顔面や腹部を貫通し、皮膚がはじけて鮮血が散るという、画期的な表現が話題になった。
さて、このテーマを扱うにあたり、海外には知っておきたい2大バイオレンス野郎と呼ぶべき巨匠監督がいる。ひとりは、『ロボコップ』(88年)『スターシップ・トゥルーパーズ』(98年)のオランダ人監督、ポール・バーホーベン。マシンガン、クリーチャーによる捕食、薬品等、さまざまなバリエーションで人体部位欠損をビジュアル化してきたヤンチャ者だ。
そしてもうひとりは、意外に思うかもしれないが、スティーブン・スピルバーグである。『E.T.』(82年)をはじめとした感動ドラマを多く手がけているが、初期の『ジョーズ』(75年)からして人体部位欠損表現が凄まじい。また、『プライベート・ライアン』【5】での冒頭ノルマンディー上陸シーンにおけるゴア表現(血肉が飛び散る猟奇的な表現)は、彩度を落とした陰惨な画面効果と相まって、映画史に残るコンバットシーンとして映画ファンの記憶に刻まれている。さらに『ミュンヘン』(06年)における、爆破されたホテルの部屋で人体の一部がシーリングファンに引っかかっている、といった暗殺シチュエーションへの力の入れようも半端ない。一見ヒューマン系作品でも、ちょいちょいバイオレンスシーンを差し込んでくるから、油断ならない監督である。
一方、吉田氏は『レザボア・ドッグス』の耳そぎのような「拷問」もバイオレンスジャンルのひとつだとして、スティーブン・ギャガン監督の『シリアナ』【6】、マーティン・キャンベル監督の『007 カジノ・ロワイヤル』(06年)、キャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』(13年)の3本を挙げた。いずれも被害者を拉致監禁して肉体的・精神的に追い詰める責め苦が、ねっちり描かれる。『007 カジノ・ロワイヤル』の「全裸金玉蹴り」などを見ると、こちらのおなかまで痛くなってきそうだ……。
日本が誇るバイオレンス監督 深作欣二と三池崇史
もちろん、日本勢も負けていない。中でもタランティーノをはじめとした世界中の多くの映画人がリスペクトを捧げるのが、『仁義なき戦い』シリーズ、『バトル・ロワイアル』【7】の故・深作欣二監督だ。
「『仁義なき戦い』は、チャンバラとは一線を画す、ドスによる攻撃や血糊表現といったリアリティあふれるバイオレンスをスクリーンに披露したという意味で、映画業界的にはエポックメイキングといわれます」(吉田氏)
こうした“深作表現”は、その後の国産バイオレンス映画に大きな影響を与えている。日本のバイオレンス映画監督といえば、裏社会系の描写に長けている『GONIN』(95年)の石井隆や『アウトレイジ』(10年)の北野武、凄惨な犯罪模様を描写する『冷たい熱帯魚』(11年)の園子温などが思い浮かぶ。また、『ビー・バップ・ハイスクール』(85年)の那須博之や『パッチギ!』(05年)の井筒和幸も、ヤンキーケンカものという独特のジャンルを代表する監督だ。
そんな中、「海外では『バイオレンス映画でフカサクの後を継げるのは、タカシ・ミイケしかいない』といわれています」と吉田氏。そう、『クローズZERO』(07年)、『悪の教典』【8】の三池崇史監督だ。
「三池監督は空手経験者だったこともあり、体育会系のちゃんとした暴力を描くし、ウェットにもドライにも人を殺す演出ができる。例えば、『十三人の刺客』(10年)のように、義憤に駆られた男が激情して人を殺す演出も、『殺し屋1』(01年)のように狂気の殺人者が無感情に人を殺す演出も、どちらもできる。この手数の多さは邦画界では稀有な存在だ。
「『殺し屋1』が世界的に人気を博して以降、世界のバイオレンス映画界ではトップランクのカルト監督扱いです」(吉田氏)