――昨年、雑誌制作関係者たちをもっとも動揺させた出来事は、「恋より楽しいことがある」と謳った新潮社の女性カルチャー誌「ROLa」の創刊ではないか。また同時期には、角川マガジンズが「chouchouALiis」という“妄想ガールの新ライフスタイルマガジン”を創刊。アラサー文化系女子を狙う両誌の比較から、ボリュームゾーンと見なされながらこれまで数々の雑誌が討ち死にしてきた女性カルチャー誌の難しさを考える。
【1】「ROLa」
新潮社/隔月刊/620円
誌名の由来は、あるオペラのヒロインから名付けられたと言われている小惑星の名前で、雑誌を通じて読者に新しい世界や天体を示していきたいという思いが込められているそう。初見では、てっきり「傷だらけのローラ」(西城秀樹)から取ったのかと思いました。【2】「chouchouALiis」
KADOKAWA/不定期刊/690円
「chouchou」がフランス語で“お気に入り”、「Aliis」がラテン語で“その他”を意味し、2つを合わせた造語とのこと。表紙は壇蜜で、普段の艶っぽい雰囲気とは180度違ったピュアな雰囲気の写真が使われており、パっと見、彼女だと気づかない人もいそうだ。【3】「an・an」
マガジンハウス/週刊/390~440円
10月の大リニューアルで表紙も大幅路線変更。顔のドアップが基本線になっている。リニューアル1発目の表紙に文化系男女からの支持を集めるモデル・水原希子を持ってきたあたりからも編集部の取りたい方向性がうかがえる。
2013年の女性誌界では、40代の独身女性をメインターゲットとしたファッション・ライフスタイル誌「DRESS」(gift)、「GOLD」(世界文化社)が創刊され、独特なキャッチコピーや切り口で話題を呼んだ(こちらの記事参照)。その一方で、夏から秋にかけて相次いでアラサー女性向けのカルチャー誌が創刊されたことにも注目したい。8月に新潮社から創刊された「ROLa」【1】と、10月にKADOKAWAから創刊された「chouchouALiis」【2】がそれだ。
両誌は共に、自分の好きなことや趣味には惜しみなく金を使うといわれている、いわゆるオタク気質の強い20代後半から30代の女性(文化系女子)をメインターゲットに据えて、アニメやマンガ、ゲーム、アイドル、宝塚など、幅広いオタジャンルをオシャレに(?)かわいく取り上げているのが特徴だ。一見よく似た方向性に見える2誌だが、その創刊意図から誌面の特徴を詳しく分析してみよう。
まず一足先に創刊された「ROLa」のスローガンは「LIFE IS A GAME, PLAY IT―人生とは一度きりのゲーム、だから思い切り楽しみなさい」。編集部が半年間に渡って想定読者(“ローラ世代”)にリサーチを行った結果、ローラ世代は「多趣味で、新しいことをいつも探しており、好きなものを極めるパワフルな行動力と購買欲を持っている」ことがわかったそう。それらを踏まえてこのスローガンを掲げ、遊びと趣味にフォーカスし、モノを独自の視線で紹介するという指針を立てたそうだ。現在までに3号発売されているが、「恋より楽しいことがある」(1号)、「『90年代』って女子カルチャー」(2号)、「恋よりマンガ」(3号)と、若干強がり感の否めない表紙コピーが印象的。
企画については、毎号50ページ程度の大特集を組んでおり、1号目は「ハワイ」、2号が「90年代カルチャー」、3号が「マンガ」。読者世代にはドンピシャであろう『美少女戦士セーラームーン』の作者・武内直子の対談が3号にわたって出し惜しみしながら掲載されていたり(創刊号では表紙で大きく煽っておきながら、掲載はたった2ページ!)、広告の都合なのか、しつこくハワイ関連の企画が登場する。創刊号は雑多すぎてとっちらかった印象もあったが、2号目からは企画が整頓されて読みやすくなったように感じた。ただ、“ローラ世代は新しいことをいつも探している”好奇心旺盛な女子のはずなのに、90年代カルチャーで小室哲哉を引っ張り出してきたり、『セーラームーン』のような往年の名作を大きく取り上げたり、全盛期時代の「りぼん」(集英社)のマンガ特集で盛り上がったりと、懐かしモノに頼る企画が多いのが気になるところ。アラサーにもなると学生時代に流行ったものや夢中になっていたことに心躍る傾向がかなり強くなるので、懐古趣味に走るのは悪くはないと思うが、今後企画が尻すぼみになってくるのではないかと、余計なお世話であろうが心配してしまう。