シノギを書くと土下座じゃ済まない? ヤクザ最大のタブー記事と番記者たちの"血風録"

――本誌でも再三指摘してきたが、暴力団排除条例によって苦境に立たされたのは、ヤクザだけではない。彼らの動向を伝える雑誌もコンビニからの撤去などを余儀なくされている……。

警察とヤクザのにらみ合いはいつまで続くのか?

 一連の暴排条例により、コンビニという雑誌にとっては命綱ともいえる販路を断たれ、軒並み部数を落とし、存亡の危機に立たされているヤクザ記事を毎号扱う実話誌や専門誌。本稿では、そんな瀕死の雑誌血風録と特異性をひもといてみたい。

 まず、ヤクザ記事の黄金期は1970年代後半にさかのぼる。山口組全国侵攻に伴い、各地で地元組織と抗争が勃発。連日のように発砲事件などが発生していたこの時期は、ヤクザ記事とエロを前面に押し出した“実話誌系”と呼ばれる月刊誌が多数乱立した。

「当時、ヤクザジャーナリズムの御三家と呼ばれた週刊誌3誌『週刊実話』(日本ジャーナル出版)、『アサヒ芸能』(徳間書店)、『週刊大衆』(双葉社)の専属ヤクザ記者たちが、実話誌系月刊誌にも寄稿。抗争以外にも、各地の親分のインタビューや組織の歴史などを掘り下げ、人気を博したんです」(ヤクザに詳しいジャーナリスト)

 これらを含むヤクザ記事を扱う現存雑誌5誌の詳細はこちらの記事に譲るとして、84年、日本最大のヤクザ組織に成長した山口組が跡目をめぐって分裂を起こした「山一抗争」をピークに、その勢いは徐々に衰退していく。

「全国の中小規模の独立組織が、山口組と稲川会、住吉会に吸収され、全国のヤクザ人口の8割を占めるまでに至ったこの3大団体による寡占化が進んだため、過激な抗争などが収束。加え、警察の取り締まりも厳しくなり、ヤクザ側もマスコミとの接触を制限するようになった。89年、山口組では渡辺芳則組長が五代目体制を確立すると、“菱のカーテン”と呼ばれるほどの情報統制が敷かれ、まったくネタが取れなくなった」(同)

 このため、「山一抗争」時代には毎週数十ページをヤクザ記事に割いていた週刊誌御三家もその紙幅を減らし、連動して実話誌系月刊誌も相次いでヤクザ記事から撤退。エロに頼った誌面構成に転換するも、部数は低下、次々に廃刊という憂き目に遭った。そんな中、全国の親分衆が表紙を飾り、カラーグラビアでも「盃儀式」などの義理事を紹介し、全国の逮捕者や服役者まで扱うような、ヤクザ記事に特化した専門誌は数誌が生き残りはしたが、現在では「実話時代」(メディアボーイ)と「実話ドキュメント」(マイウェイ出版)の2誌だけになってしまった。

「それでも、数年前までは『実話時代』が派生誌『実話時代BULL』を発行。かつては竹書房が『実話ドキュメント』を発行しており、『実話時報』という新雑誌を立ち上げ、前者が山口組を、後者がそれ以外の団体をフィーチャーするなど、専門誌ならではの強みを発揮、それなりの部数は確保していたんですが……」(取次関係者)

 こうしたヤクザ専門誌にとって死活問題だったのが、前述した「暴排条例」。これが11年10月、全国施行されたことで、企業イメージをなにより優先するコンビニなどが過剰反応。道仁会と九州誠道会(現・浪川睦会)が過激な分裂抗争を繰り広げ、工藤会が"暴走モード"に入っていた福岡では、コンビニの店頭から専門誌が排除される事態に陥ったのだ。

「10年4月、自身の原作のヤクザコミックをコンビニから排除された作家の宮崎学氏が、表現の自由を盾に国賠を起こすなどの抵抗を試みたんですが、今度は銀行から出版社側に圧力がかかった。『実話ドキュメント』と『実話時報』を発行していた竹書房に対して、同社のメーンバンクが『ヤクザを礼賛するような雑誌の発行を続けるのであれば融資の継続は難しい』と揺さぶりをかけてきたらしいんです」(同)

 ヤクザ同様、資金源から付き合いを断られそうになった竹書房は、12年4月にあっさりと「実話時報」のリニューアルを決定、芸能ゴシップやエロネタをふんだんに盛り込んだ「実話時報ゴールデン」へと誌名も変えた。また同時期、「実話ドキュメント」も、表紙からヤクザの写真をなくし、記事も芸能や事件を中心とした誌面へとリニューアルしたが、部数が激減したという。

「やむを得ず『実話ドキュメント』は再びヤクザ色を強めたんですが、銀行からのさらなる揺さぶりを受け、あえなく休刊。雑誌ごと別の版元に売却せざるを得なくなったと噂されています」(同)

 こうした風潮は、現場で取材する記者たちにも暗い影を落としている。某週刊誌のデスクの話。

「全盛期のヤクザ雑誌は、骨太な記事がアダとなって自身のみならず実の息子までヤクザから刺された経歴を持つ溝口敦氏や、任侠団体の歴史考察に定評のある山平重樹氏などを輩出。最近でも『実話時代BULL』の編集長から独立した鈴木智彦氏などがヤクザ記者出身のジャーナリスト、作家として知られていますが、彼らのような書き手ですら、『(自分の)10年後はどうなっているかわからない』と嘆いているほどです」

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