2013年創刊ラインナップから見る雑誌業界の最新トレンド

 毎年、多くの雑誌が生まれては消えてゆく。2013年もまた、多くの雑誌が創刊された。そうした新雑誌の誌面と売られ方から、創刊の背景と、今の雑誌業界が志向する新潮流を読み解いてみたい。

(写真/磯部昭子)

●30年越しバブルの残り香
アラフォー肉食女性向けファッション誌

「DRESS」
gift/月刊/780円
「GOLD」
世界文化社/月刊/820円

2誌共に厚みが3センチはあり、ズッシリと重い。ちょっとした鈍器になりそうなシロモノである。誌面から発される、いくつになっても「恋も綺麗もオシャレも捨てない」と言わんばかりのパワフルな女性像に辟易するか、年齢の重ね方の新たなロールモデルと捉えるかは見る人次第だろう。

 かつてテレビと並び、情報元にして文化・流行の発信源だった“雑誌”。しかし、2014年現在、もはや言うまでもなく、情報はウェブ上にあふれ、ネット発の文化・流行も当たり前の時代となった。雑誌に限らず、マンガや書籍に至るまで出版物というメディアは軒並み部数を減らし、長らく不況が叫ばれてはいるものの、実は雑誌のタイトル数自体は増えている。つまり、一媒体ごとの売り上げは減少しながらも、より小さい市場、狭いターゲットへ向けて、大ヒットではなくとも着実な商売をする方向にシフトしているのだ。ライフスタイルや価値観が多様化し、趣向や考え方も細分化されまくった現代においては、当然の流れだといえよう。そこで本稿では、昨年2013年に目立った新創刊雑誌へ焦点を当てることで、どんな雑誌がどんな読者へどんなメッセージを発信しているのか、雑誌業界の新たな潮流を探りたい。

 まず、創刊時にニュースとして話題を集めたのは、40代の“独身”女性をターゲットにしたファッション誌「DRESS」(4月創刊)。編集長に就任したのは、過去に40代“既婚”女性向け雑誌「美ST」(光文社)で“美魔女”の概念を提案し、一大ムーブメントを生み出した山本由樹。発行元は新たに設立された出版社「gift」で、同社の最高顧問は秋元康、名誉会長はエイベックス・グループ・ホールディングスの松浦勝人CEO、取締役会長は幻冬舎の見城徹社長、取締役副会長にサイバーエージェント藤田晋社長というド派手な布陣が敷かれている。資本金3000万円のうち60%を幻冬舎、20%をサイバーエージェント、残る20%を山本編集長ら個人が出資。

 また、この時代に発行30万部という数字もすごいが、広告収入は2億5000万円にもなるという(いずれも創刊号での数字)。実際の誌面を見てみると、表紙は年間契約を交わした米倉涼子が飾り、続く特集“恋する「DRESS」な女たち”では、アラフォーのいかにもイケてる風の独身女性が語る「私の適齢期はこれから」「今は結婚を選ぶ時期ではない」といった、まるで20代前半女子のような未来像も散見される。

 公式サイトにアップされている動画で山本編集長は「DRESSは雑誌じゃなくて、社会を変えるための大きなプロジェクト」との理念を掲げており、誌面でも「女のための女の内閣マニフェスト発表!」として、結婚問題担当相にタレントの小島慶子、恋愛担当相に脚本家の北川悦吏子、働き方担当相に安藤美冬などが就任し、自由な女性の生き方を提案。

 ほか試みとして目を引くのは、朝日新聞出版の「AERA」と“女性を幸せにする社会実現に共感”という理由で、コラムなどの記事を提供し合っていること。同じ年齢層をターゲットにしているのが大きな要因であろうが、政治や経済への関心を、ファッション誌の編集部が無理やり勉強して詰め込むよりも、すでに得意分野としている他媒体に協力をあおぐのは、今後の雑誌における新しい流れになるかもしれない。ただ、雑誌全体としてはひたすらに広告タイアップのようなページが多く、読み物というよりは、通販カタログといった趣である。

 そんな「DRESS」よりさらに上の40代半ばから50代をターゲットに、贅沢な奥様雑誌「家庭画報」でおなじみ世界文化社から創刊されたのが「GOLD」(10月創刊)。創刊号の表紙&3号連続のロングインタビューに登場するのは今井美樹。ほか誌面でモデルを務めるのは、1962年生まれという編集長と同世代の中村江里子、三浦りさ子、藤原美智子(藤原は前述「DRESS」の「女のための女の内閣」では美容担当相を務める)など。

 30年近くも前、80年代に高級ブランド品を身につけ、一流ホテルで高い食事をしながら若さと好景気を謳歌する青春を過ごしたバブル世代の女性に向けて、あの頃のギラギラではなく、艶のある輝き(=GOLD)を提案するのがコンセプト。編集長の創刊へ向けた言葉「頑張れば何事も叶う! できないことはない!」という前のめりな鼻息の荒さからは、現代の若者とは比べ物にならない貪欲さを感じられ、いっそ心地よいほどだ。

 表紙には大きく「どこにもないものが見たい」とあり、期待して誌面をめくってみると、そこには店頭ではなかなかお目にかかれないというレアなフランク・ミュラーの時計1029万円、サンローランのバッグ(400万円)やジバンシィのミンクジャケット(230万円)が豪勢に並ぶ。加えて連載「50’s WINDOW」では、“終の棲家が完成しました”という見出しとともに、主婦モデルの萩原リカ(俳優・萩原健一の妻)がとんでもなくバブリーなバカでかい自宅を紹介。

 一方で、雑誌の中盤、200ページを超えてタイアップが増えてくると、薄毛・白髪対策の特集や、「もしかして更年期?」というタイトルの“読む処方箋”もあり、今さらバブルだオシャレだと浮かれていられない現実の緊迫感を与える。

 ちなみに、この「DRESS」と「GOLD」は、共に400ページ超えで前者は約1.4キロ、後者は約1.5キロと、雑誌とは思えない重量。それだけ広告ページが多いということだが、それはつまり広告を出稿する企業の側が、40代以上の女性の購買力と欲望に市場価値を見出している結果といえよう。

 さてバブリーといえば、まさに狂騒としか言いようがない「NEOHILLS Japan」【1】も見逃せない。これはもう内容をどうこう言う前に、責任編集長にして表紙を飾る与沢翼のビジュアル一発で“ヤバい”ことは明白だ。誌面では、20代にして年間1億円を優に稼ぐ起業家が次々に登場し“俺様”話を披露。雑誌のキャッチフレーズ「稼ぐか、死ぬか!」の前では、先の女性たちのどんな若づくりもかわいく思える。

 他方で、ネオヒルズ族のギラつきと対極をなすかのように、学研から創刊された主婦雑誌「aene(アイーネ)」【2】では、巻頭特集「私たちのお買いモノ白書」で20~30代のママたち1000人が、300円で買ったバスケットなどを「コスパで時短♪」と慎ましく紹介している。この落差は単に格差社会というよりも、どこに自分の人生の価値を置くのか、個々人によってとてつもなく開きがある今の時代の象徴なのだろう。

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