『だから直接聞いてみた』(宝島社)
人気放送作家の鮫肌文殊氏と山名宏和氏と、二人の事務所の後輩で現在は脚本家として活動する林賢一氏が、知ってトクもしなければ、自慢もできない、だけど気になって眠れない、世にはびこる難問奇問を直撃解決! する連載「だから直接聞いてみた for ビジネス」。12月某日、サイゾー兄弟サイト「ビジネスジャーナル」(http://biz-journal.jp/)にて連載中の同企画の1年を振り返る鼎談が都内某所で実現した。メガポータルサイト「Yahoo! ニューストピックス」に取り上げられた話から、特にお気に入りの企画、カスタマーセンターの対応がぞんざいだったなど取材時の苦労話までを語り尽くしてもらった。
この鼎談を読めば、日本の企業の深層が見えてくる!?
Yahoo! ニュースのトップを制覇
鮫肌文殊(以下、鮫肌) やっぱり今年は、俺らの連載がYahoo! ニュースのトピックス(以下、ヤフトピ)に載ったのが事件だったよな。最初に載ったのは山名のだっけ?
山名宏和(以下、山名) そうですね。【銀行ATMの手数料って一体なんのためにある? みずほ銀行に直撃してみた】ってネタですね。僕は社会派ですから(笑)。
鮫肌 俺も【人気スーパー・コストコ、年会費4200円はなぜかかる? コストコさんに聞いてみた】ってネタでヤフトピに載ったらしいんだけど、正直、今日聞くまで知らなかった(笑)。
山名 そもそも鮫肌さん、コストコ使ってないですよね?
鮫肌 自分の担当番組で扱ったから疑問がわいたわけ。で、林がスタバのネタか。
林賢一(以下、林) そうですね、【スタバの当日おかわりサービス、なぜドリップコーヒーだけ? スタバさんに聞いてみた】ってネタです。
鮫肌 結局、1人1ネタずつヤフトピに取り上げられたのか。
山名 これらの記事って全部2013年になってからアップされたものなんですよね、ヤフトピに取り上げられたのは。これは連載してる「ビジネスジャーナル」の認知度が上がったからなんですかね?
林 噂で聞いたんですけど、Yahoo! ニュースの担当者の中に、この連載を気に入ってくれている人がいるみたいです。
鮫肌 ヤフトピ掲載も嬉しいんだけど、俺が一番チェックしているのは「ビジネスジャーナル」中の人気記事ランキング。あのトップ10に入るのが嬉しいんだよね。自分の原稿が1位になったことがあって、めっちゃテンションが上がった。で、それ以来1位を狙いはじめた(笑)。最近のネタ【チキンラーメン、キレイな卵のCMどおりにつくるのは無理? 日清食品さんに聞いてみた】は、がっつり1位を狙いにいったんだけど、かすりもしなかったなぁ。
山名 やっぱりひねり出したネタじゃなくて、ストレートなもののほうがいいんですよ。
鮫肌 そもそも、この連載は「サイゾー」でやってたんだけど、その時はテレビや雑誌の業界人がすごく読んでくれてたよね。タレントさんにも「読んでます」ってよく言われて、認知度はすごかった。ネット連載になってからは、業界人よりも一般の方々の読者が増えたイメージがあるなぁ。
山名 我々の業界の人たちは意外とネットのチェックはゆるいですよね。
林 雑誌の時はディープなネタが求められてましたが、ネットに移行してからは社会性のあるネタが話題になりやすい気がしますね。
山名 そう考えると、鮫肌さんの【女性版TENGAがついに降臨! お値段6800円は高いか安いかメーカーに直撃】は社会性ゼロですよね(笑)。
鮫肌 それでいうと俺の【規制厳しい昨今、ドロリッチのCMが、巨乳女子を使い続けるワケとは?】も社会性はないけど、俺はこういうセクシー系のネタの担当だからさ(笑)。
林 そっち系のネタは鮫肌さん、引き続きお願いします! あと、雑誌とネットの違いでいうと「検索に引っかかるか」は重要ですよね。
山名 そうそう。作家仲間が小田急線下北沢駅の跡地がどうなるか気になって検索したら、僕の【地下化された下北沢周辺の跡地用途はなぜ白紙? 小田急電鉄に直撃!】がヒットしたって言ってたなぁ。
林 意外なところで出会うっていうのもネット原稿の醍醐味ですよね。
山名 これは雑誌時代の話だけど【壊れたビニール傘は、(可燃、不燃の)いつゴミに出せばいいんですか?】って原稿を書いたことがあって、テレビ番組のリサーチ会社が出してきた資料に自分の原稿があったことがあった。これも意外な出会い。
この連載が社会を動かしている!?
鮫肌 雑誌時代でいえば、【ポン酢のCM、ドボドボかけすぎじゃないですか?】ってネタは印象的だなぁ~。あれ、翌年のCM観たら、確かにドボドボが少なくなってたからね。
林 結構この連載、社会動かしてますよね。
鮫肌 そういえば、アレ変わってない? JRの改札! 俺が【JRのSuicaと改札は個人情報保護が万全じゃない!? 適切な通過速度とは?】で、「Suicaの残金が後ろのお客さんに見えちゃうのヤダ!」って直撃したんだけど、あの表示、出てすぐ消えるようになったよな?
一同 ……。
林 もし本当なら、JRのシステムごと変えてる大事件ですよ(笑)
鮫肌 直撃前は残金が数秒表示されたけど、パッっと一瞬で消えるようになったな〜って。…あれ? ただ単に俺の思い込みかなあ(笑)。
林 実は僕のやった記事でも社会を変えたネタがありまして。【紀伊国屋書店さんの"神対応"?レジでしつこいあの質問、「やめて」とお願いしたら…】ってやつなんですけど、その後、お店に行ったら「ポイントカードお持ちですか?」と聞かれなかったんですよ。マニュアルが変わったのかもしれないです。
山名 それは、たまたまその店員が忘れてただけで、後で叱責されてるかもしれないよ。
林 まあ確かに、思い違いかもしれないんですけど。
山名 企業側の対応でいえば、電話を受ける前に「音声を録音します」ってアナウンスをするようになって、あっちもどんどん礼儀正しい対応になってきてますね。
鮫肌 それと、今はどんなくだらないことでも真摯に答えてくれる印象はあるね。初期の頃は「そんなことを思うあなたは人間じゃない!」みたいなリアクションで、本気で怒ってたこともあったしな。
山名 ネット社会が充実してきたから、炎上しないように企業側の対応変わったんでしょうね。
林 あと、僕は【ルノアールの素晴らしき従業員教育の賜物 絶妙なタイミングでお茶が出てくるワケ】っていうネタを直撃して、その返答は「飲み物を半分飲んだらお茶を出す」だったんですけど、それ以来、店員さんの机の上の飲み物を見る目がギラリと光っているような気がします。
鮫肌 俺もルノアールのヘビーユーザーだから、林の原稿読んでから店員さんの動きをチェックするようになった。そしたら、実際に半分くらい飲んだらお茶が出てくる。あれすごいよな。
林 元々社内のマニュアルにはあったのかもしれないんですけど、この直撃がきっかけで店員への指導が強化されたような気がします。
カスタマーセンター、衝撃の裏側!
鮫肌 振り返ってみると、マスコミに直撃しているネタも結構多いよね。でも、マスコミって普通の企業に比べるとリアクション悪い感じがするんだけど。【最近やたらと週刊誌が「お年寄りの性特集」を組む理由とは? 週刊ポストさんに聞いてみた】ってネタも担当者はつっけんどんな対応だったなぁ。
山名 それは向こうにマニュアルがないからですよね。テレビの場合だと視聴者対応って、最終的に番組スタッフにつながりますからね。最近はディレクターとかAPとかがやってますし。十数年前は僕たち放送作家も視聴者対応やってましたから。かなり昔ですけど「シングルファーザーを擁護する」みたいな番組で電話対応をしたことがあって、実際のシングルファーザーから電話がかかってきて、僕が応対することになって。その人がずっと「大変だ」って言ってるので、こっちは「はい、はい、そうですか」って頷いてるだけだった。切なかったなぁ。
林 そんな時代があったんですね。
山名 たぶん、昔はそのあたりがルーズだから作家がそんな対応をしていた。今はADさんにもやらせないんじゃないかなぁ。
鮫肌 そういうのって話を聞いてほしいだけの人が多いんだよな。
山名 昔は我々も「だから直接、聞かれる」立場だったんですよね。当時はそういう電話では「名乗るな」って言われてたけど、今の企業は担当者が名前を出すのがマニュアルになってますよね。
林 あと最近、問い合わせしようとするとメールでしか受け付けないって会社も増えてきてますね。将来的にはこの連載もメールで返信がくる時代になるかもしれません。
鮫肌 長年やってきて、あっちの対応に歯ごたえがなくなってきたってのもあるよね。昔はけっこう邪険に扱ってくれたので、こっちも書きやすかった。今はちゃんと対応してくれるし、納得のいく答えが多い。それが最近の変化かなぁ。店員の逆ギレもないしね。
山名 最近、カスタマーセンターは絶対にキレたりしないですよね。お客様センターで働いている知人がいるんだけど、ものすごく割り切って仕事してるみたい。我々はクレームしているわけではないけれど、それ以上にもっとひどい電話がたくさんあるわけですよ。我々なんてプリティーですよ。こっちは答えがある問いを聞いているだけですから。そして、なぜかあるタイミングで分かってくれるから。引き際がはっきりしているいいお客さんですよ、あっちからしたら。
鮫肌 こちらもこちらで、ただ文句が言いたいだけの疑問とかクレームにはならないように気をつけているもんな。
山名 そう言ってますけど、鮫肌さんの【高島彩のメイク落としCMは本当にすっぴんか? 花王に直撃!】ってネタはクレームじゃないですか?(笑)
鮫肌 あれは誰もが一度は聞きたかったことでしょ!
林 そこの線引きは曖昧ですよね(笑)。あと、僕たちのネタの特徴ですが、生活範囲内のネタしか直撃しないので、車ネタとか宝石ネタとかセレブネタがないですよね。
鮫肌 林は異様に本屋と映画ネタが多いしな。あとやっぱり大手チェーン店のご飯屋ネタも多くなる。
林 この連載のために生活範囲を広げようかな、と思ったりもします。
山名 じゃあ、林はミシュラン星3つの店に通ってセレブな疑問を作ればいいんじゃない? カスタマーセンターじゃなくて、直接お店につなげて。忙しいからすぐ切られちゃうと思うけど。
林 それはネタがボツるだけなので、やめておきます(笑)。そういえば、編集部から聞いたんですけど、PVが微妙で印象的だったネタが【マッサージ師は「チェンジ」OKだった! 意外とちゃんとしてる「てもみん」に直撃】だそうです。
一同 (笑)
鮫肌 ある意味、物議を醸したのか。
林 あと以前、この連載自体を広告で買いたいという人もいたらしいんですよ。「うちの会社を取り上げて直撃してくれ」って話だったようです。
山名 それはドM・PRだなぁ。ユニクロとか牛角もありましたよね、「クレーム買います」みたいな企画。今それをやると、半端ないクレームがきちゃうので、やれないんだろうなぁ……。当時はもっと企業に対する世の中の空気感がまろやかだったんでしょうね。
鮫肌 それでいうと、俺は某会社について書いたら賄賂がきたこともあったよ。俺宛に商品券が10万円分、事務所に届いて驚いてさ。しっかりと社長の名前が記されてて。でも一枚も使わずに捨てちゃった。これ使っちゃうと負け、って思った。こんな細かい連載までチェックしてるんだな~ってビックリした。
山名 原稿の締めは決まったね。林、「鮫肌文殊は『こんな商品券で懐柔されるか!』と、まるで本宮ひろ志のマンガキャラクターのように、商品券をやぶって市ヶ谷駅のホームからばらまいたのだった……」って、まとめといて。
鮫肌 それじゃ、ただの環境破壊じゃねーか!
(構成/林賢一・酒平民)
鮫肌文殊(さめはだ・もんぢゅ)
1965年、神戸にて誕生。放送作家。『世界の果てまでイッテQ!』(日テレ系)、『さんまのスーパーからくりTV』(TBS系)などを手がける。
山名宏和(やまな・ひろかず)
1967年、東京にて誕生。放送作家。『行列のできる法律相談所』『ザ!鉄腕!DASH!!』(共に日テレ系)などを手がける。
林賢一(はやし・けんいち)
1979年、五反田生まれ。放送作家/脚本家。学生時代から古舘プロジェクトで修業。
映画監督・入江悠と仲間たちが映画を愛する人々へ贈るメルマガ【僕らのモテるための映画聖典】(http://www.mag2.com/m/0001320971.html)で「新作映画のカット数を数える」という無謀な連載中。是非ご一読を。