同じ「ジャンプ」が1日で値上がり!? 消費税増税にふりまわされる雑誌業界

『業種別 消費税率引上げ・転嫁対策ハンドブック』(ぎょうせい)

 消費税が来年4月1日から8%に上がってしまう。国の財政を考えると、仕方ないとうそぶく"社会主義的富裕層"が多い日本とはいえ、最下層にいる筆者には景気が上向いた実感すらなく、「なんたる暴挙」と飲み屋で恨み節をぶちまける日々だ。

 さて、出版界、とくに雑誌業界でもこの税率アップの話題で持ちきりだ。

 というのも出版界では、消費税アップにあたり、書籍出版社の団体である一般社団法人日本書籍出版協会(JBPA/以下、書協)と雑誌出版社の団体である日本雑誌協会(以下、雑協)が合同で、「税制専門委員会」を立ち上げ、増税に対する実務的な対応を検討してきた。行政側が消費税増税を見込んで、前もって諸団体に、増税した際の特別措置法や施行令を公布していたので、その内容を元に書店や取次などと、どう対応するかを議論してきたからだ。

 だが、この特別措置法が、事態をややこしくしているのだ。

 書籍に課せられる消費税は、来年3月31日までは5%、それ以降から8%に切り替わるという段取りになっている。だが、雑誌の場合が少々ややこしくなっており、週刊誌や月刊誌などの定期的に敢行される雑誌は、来年3月31日までに発売されれば、翌号が発売されるまでは(たとえ4月に入っても)旧税率(5%)が適用されることになっていた。「サイゾー」を例にとると、毎月18日発売であるから、3月18日発売号は、4月17日まで5%の消費税が適用され、4月18日発売号から8%が適用されるという具合だ。

 こうした施策は、気の利かない行政の割には消費者にやさしい措置と思えたのだが、これに「待った!」をかけたのが、書店やコンビニエンスストアなどの小売り側だ。というのも、多くの書店や、すべてのコンビニが導入しているPOSレジで、5%と8%の両方の税率を商品別に対応するのは「不可能に近い」と言い出したのである。小売り側から一斉に「NO」といわれた出版社は焦った。もし特別措置のまま、税率アップのXデーを迎えてしまうと、店頭で対応できない雑誌は4月1日から撤去・返品されてしまうかもしれない――そんな悪夢が頭をよぎったのである。

「発売日を何とかずらせないものか」「3月発売号は出さずに、4月に合併号をだそうか」などと、出版社は対応策に四苦八苦。そうした中、最も注目されていた雑誌が「週刊少年ジャンプ」(集英社)だ。マンガ雑誌の王様で、今でも約280万部は発行されているお化け雑誌である。「ジャンプ」の発売日が毎週月曜日であることはご存知だろうが、なんと3月最終号は31日発売なのである。さすがに小売り側も「ジャンプ」は撤去できない。

 特別措置法のせいで、出版社側は八方ふさがりになってしまったわけだが、そこは発想の転換。「このやっかいな特別措置法そのものを撤廃してもらえればいいのでは?」ということで、前出の合同委員会が財務省に法の見直し、もしくは撤廃を求めたのである。財務省は「前回の消費税率アップの際に、このような特別措置を講じろと言ったのは出版業界ではないか。何を今さら」という態度であったものの、消費者・小売りサイドの混乱を勘案して10月25日に特別措置「消費税法施行令附則第5条第2項」から雑誌を対象外にすることを決めた。

 しかし、それでも問題は残っている。3月31日午後11時59分59秒までは5%、それ以降は8%と消費税を一律に定めるのはいいが、雑誌は全国同一の発売日ではない。週刊誌の場合、北海道や九州の一部、沖縄などでは発売日が首都圏より1日以上遅れるのだ。すると、首都圏などで月曜日発売の雑誌は5%の消費税で買えても、火曜日以降の地域では8%となり、一時的とはいえ地域格差が生じてしまう。再販制度(独占禁止法上は原則として禁止されている再販売価格の指定を例外的に認める制度。書籍、雑誌、新聞及びレコード盤、音楽用テープ、音楽用CDなどに適用される。正式には再販売価格維持制度)によって、全国同一料金とされている出版物が消費税のせいで、不平等が発生する事態をそのままにしておいていいのだろうか?

 もちろん価格設定に関する問題も上がっている。印刷費や紙代なども上がるので、本の販売価格を上げるのか、据え置くのか、そこもまた出版社の頭痛の種となっているのだ。中小出版社が発行するものの中には、値上げせざるを得ない雑誌が出現する一方、資本力のある大手出版社は増税分を負担して値上げしない措置を取り、より中小出版社と価格面で優位に立ってしまうかもしれない。

 いずれにしても、今回の消費税増税が出版界にとって痛手になる、とみている業界関係者は多い。その上に、再来年10月に予定されている10%への引き上げと合わせて、消費税の往復ビンタに雑誌業界は泣かされっぱなしだ。その仕返しといわんばかりに、週刊誌で安倍晋三内閣の特大スキャンダルをスクープでもして、雑誌業界も少しは憂さを晴らすせばいいのに、と密かに期待している。

(文/佐伯雄大)

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