学校図書館とマンガの不思議な関係―― 『はだしのゲン』はなぜ学校にあるのか?

――『はだしのゲン』などの、現在では一部ネトウヨから「偏向マンガ」などと批判されることも多い"平和マンガ"、あるいは学研や小学館などの児童書系出版社が発行する歴史ものや「○○のひみつ」といったお勉強系マンガは、どのように選ばれ、学校の図書館に納入されていったのか? その歴史に迫る!

(写真/諏訪 稔)

 子どもの頃に読んだマンガといえば読者によってさまざまだろうが、学校の図書室や学級文庫に置いてあった歴史マンガ【1】伝記マンガ【2】『ひみつシリーズ』【3】、そして、『はだしのゲン』【4】(以下、『ゲン』)をはじめとする原爆や戦争をテーマにした中沢啓治作品も、30~40代の読者にとっては記憶に残っているのではなかろうか? 「『ゲン』があるなら、ほかの少年マンガ、少女マンガが図書室にあってもいいのに。なんで『ゲン』だけはいいの?」なんて思ったこともあるのでは?

 そもそも学校図書館(法律上の呼称は、「図書室」ではなく「学校図書館」)に入る図書の選定・納入はどのように行われているのか? 学校図書館に関する著書を多数発表している関西大学初等部の司書教諭、塩谷京子氏は次のように解説する。

「1997年に学校図書館法の改正があり、03年4月1日以降、12学級以上の学校には司書教諭の配置が義務づけられました。単に本を借りたい児童が利用する場としてだけでなく、児童の読書活動の場である"読書センター"として、また"学習・情報センター"としての機能を持たせて、授業の中でも積極的に学校図書館を利用していこうという方針に変わっています」

 なるほど、かつて小学校の図書室といえば、小説や物語の好きな子が休み時間や放課後に足を運ぶ、どちらかといえばひっそりした場所であった。現在は学校によっては週に1コマ、クラス全員で図書室に行く「図書の時間」を設けたり、授業前の時間の一部を読書の時間に充てたり、学習内容によっては図鑑を調べたりすることもあるという。

「学校図書館に納入する図書の選択は、それぞれの学校に委ねられています。公立の場合は市区町村から入る予算が少なく、あれもこれもと購入できる状況でないのは事実です。今の国語の教科書には単元の終わりに図書の紹介ページがあるので、そこに掲載されている本を中心に選ぶことが多いですね。また、学校によって毎年度『教育目標』を設定していますから、それに合わせて『今年はこういう本を選びましょう』と司書教諭と図書館部の先生方が話し合って決めています。購入先は地元の書店です。書店さんが新刊本を集めて営業に来てくれる場合や、取次業者が展示会を催す場合もあります。いずれにしても選択肢はそう多くはありません。子どもに合った語彙で書かれていて、耐久性があるハードカバーで図書館用に製本されている本は、それほどたくさんは出版されていません」(塩谷氏)

 また、予算の関係上、専任の司書を各学校に置いている市区町村は少なく、非常勤で何校も掛け持ちしている場合も多い。さらに書架整理や貸し出しなどについては、地域から図書ボランティアを募っている場合もある。

 児童文学評論家で小中学校の図書館改善活動を行っている赤木かん子氏は、公立小の図書館づくりに割ける予算と時間の少なさを嘆く。

「年間予算は、公立小学校でだいたい30~40万円。多くて80~100万円というところもありますが、ひどいところは3~4万円というところもあります。先生は毎日の業務で非常に忙しいですから、図書主任に任命されても、じっくり本を選ぶ時間はありません。図書館専用のデータベースを作成しているTRC(図書館流通センター)や出版社団体が制作したカタログを見て、行き当たりばったりに選んでいることが多い」(赤木氏)

 九州のある小学校教諭も、次のように語る。

「うちの市では、毎年夏に教育委員会から図書購入費として80万円ほどの予算が出ます。図書主任の先生が取次会社の地元支店に行って注文。よほど本好きの先生でない限り、取次会社に薦められるままに選んでいますね」

 ちなみに、私立学校の場合は学校によって予算の差が大きく、ある有名中高一貫校は年間500万円もの予算があり、司書が3人も常勤しているという。一方で少子化の影響をもろに受けて財政難にあえいでいるような私立学校だと、公立よりも蔵書は貧弱、昔ながらの手書きカードで貸し出しを行っているというケースもあるのだとか。

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