――芸術系大学のマンガ学科の乱立が止まらない。昨年ついに設立申請が行われた「大阪総合漫画芸術工科大学」は、認可されていれば、日本で初めてのマンガに特化した大学となる予定だった。こうしたマンガ教育業界の活発な動向は、今後どう変化していくのか? その最前線を追っていきたい。
伝統のある大阪総合デザイン専門学校。関西にマンガの教育機関が多いのは、「大阪は、マンガ研究会のある高校が全国で一番多いので、その関係もあるのでは?」とのこと。
2012年4月、文部科学省の大学設置・学校法人審議会に提出された設立認可申請の中に、「大阪総合漫画芸術工科大学」という、マンガに特化した大学が含まれていたことが一部で話題となった。これは、日本で2番目に歴史の古いマンガコースを持つ専門学校、大阪総合デザイン専門学校を有する学校法人上田学園による構想だった。ところが同学園は、14年度の開校を目指し準備をしていたものの、12年6月には、当時の一連の大学設置認可基準の見直しの議論を受け、今後基準が不明確になる可能性を見据え、その申請を取り下げている(現在も、設立に向けて準備中)。
ともあれ、ここ数年、関西圏を中心にマンガ教育に力を入れる大学は着実に増えている。00年4月に『地球へ…』【1】などの代表作を持つマンガ家の竹宮惠子を教授(現在は学部長)に迎えた京都精華大学芸術学部のマンガ学科が新設されたことを皮切りに、昨今では、11年に京都造形芸術大学がマンガ学科を、大阪芸術大学はキャラクター造形学科を設立。
そのほか、宝塚大学のマンガコース、東京工芸大学のマンガ学科、文星芸術大学のマンガ専攻、名古屋造形大学のマンガコースなど、地方大学を中心に、増加傾向を見せているのだ。
このムーブメントについて、『スマッシュをきめろ!』【2】などの代表作を持ち、現在は京都造形芸術大学マンガ学科の学科長を務めるマンガ家、志賀公江氏はこう分析する。
「昭和の時代には『大学生が電車の中で堂々とマンガなんか読んでいる。嘆かわしいことだ』という批判がまかり通っていました。しかし、今やマンガは、外務省や通産省が音頭をとって海外に売り込む『日本を代表する文化産業』になりました。かつては『マンガ家になりたい』と思ったら親に勘当されて、一生貧乏暮らしすることを覚悟で入る世界だったのですけれどね。今ではその親世代がマンガ育ちですから。自分の夢を我が子に託す時代になったということでしょうか。最近では、マンガが近い将来義務教育になるのではないか、という声もちらほら聞こえてきます。こうした流れから、芸大でも、力を入れるところが増えてきたのでしょう」
とはいえ、現在、日本の大学の年間平均学費は、国公立で70万円前後、私立文系は110万円前後、私立理系なら140万円前後だといわれている(医学部を除く)。そんな中、私立の芸術大学ともなれば、その学費も年間にして150万円はくだらない。冒頭の大阪総合デザイン専門学校漫画学科学科長、谷口龍彦氏によると、「専門学校は、年間にして100~130万円程度の授業料が相場となっています。なので、大きいところだと1年に50万円の開きがありますし、大学と専門学校とでは2年間の差もありますから、経済面ではかなり違いが出てくるのではないでしょうか。最近は、専門学校でも生徒の4割ほどが奨学金や教育ローンを使って通っているような状況ですので、その辺りを考慮すれば、マンガ学科を設けただけで、芸大に学生が集まるのかどうかは疑問」だという。