セールス優先の歌謡曲路線は想定内――高水準パフォーマーとしてのEXILEが抱えるジレンマ

――気鋭の音楽ライターがこれまでのEXILE楽曲の変容を徹底分析!「パフォーマー」と「ボーカル」両輪で走る彼らが抱えた知られざるジレンマとは……。

『EXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~』 本来は高いクオリティの楽曲作りに挑んでき彼らだが、最近は"EXILE商法"が批判されている。

 一般的に、世のEXILEファンの大半が彼らの"楽曲"に求めているものはなんだろうか? おそらく「道」や「Ti Amo」に見られるATSUSHIとTAKAHIROの甘いハーモニーが溶け合う切ないラブソングだろう。言い換えれば、パフォーマーたちの荒ぶるダンスを目にすることができる高水準のダンス・ミュージックは二の次である。

 もちろん、EXILEというグループの位置付けが“国民的ダンス&ボーカル・グループ”というものから、極めてハイレベルのダンス・パフォーマンスに期待を寄せるリスナーも少なからず存在するが、たとえ、彼らがどんなに完成度の高いダンス・ミュージックを世に送り出したとしても、その観点での評価は送り手と受け手で著しいズレが生じているように思う。

 そもそもEXILEのパフォーマーはクラブ・ダンサー出身のメンバーがほとんどであり、連日連夜DJがプレイする海外のヒップホップやR&B、ハウスといったクラブ・ミュージックに育てられたバックグラウンドがある。つまり、現在のEXILE人気を支えるファン・リスナーの多くが通過してこなかったであろう(まだ通過できない若年層も含む)カルチャーを経て、EXILEはクラブからの叩き上げ集団として頂点を極めた稀有の存在なのだ。

 リーダーのHIROがEXILEの前身となる(初代)J Soul Brothers時代(所属レコード会社は1999年のデビューと同時にavex内に創設されたrhythm zone)に標榜していたサウンドは、いわゆるクラブ・ミュージック(ストリート・シーン)に根差したものだったが、当時の“歌謡界”のリアクションは冷ややかなものだった。

 そもそもHIROがJ Soul Brothers以前に、EXILE同様“歌とダンス”で一世を風靡したユニット「ZOO」のメンバーであったのは有名な話で、後にEXILEがカヴァーするにまで至った「Choo Choo TRAIN」や「Gorgeous」「YA-YA-YA」といった、ブラック・ミュージックのエッセンスを随所にちりばめた楽曲で軒並みヒット・シングルを放ったことは、ZOOが日本の歌謡界に残した輝かしい功績と言える(90年代初頭にそのようなアプローチで成功したグループは皆無だろう)。

 ZOO解散後の翌年96年にHIROは、同じくZOOのメンバーであったSAEとCAPの3人組ユニット「LUV DELUXE」を結成。プロデューサーに当時UAのサウンド・プロデュースで名を轟かせたプロデューサー、朝本浩文を起用するなどして、まだまだ国内ではマイノリティであったダンス・ミュージックを歌謡界へ伝搬しようと訴えたが、お世辞にも芳しいと言える売り上げを記録することはできず、同ユニットは活動わずか1年で解散を余儀なくされた。

 その後、01年、初代ボーカルを務めていたSASAの脱退を機に、新たにATSUSHIとSHUN(現・清木場俊介)をボーカリストとして招き、J Soul Brothers改めEXILEとして再出発を図る。デビュー・シングル「Your eyes only ~曖昧なぼくの輪郭~」は、オリコン・シングル・チャート4位と順調な滑り出しとなったが、このヒットを皮切りにEXILEのサウンド・スタイルは実験的な動きを見せ始める。当時、MISIAや宇多田ヒカルの台頭によって“Japanese R&B”ムーヴメントが加速を続けていたことも相まって、「Your eyes only ~曖昧なぼくの輪郭~」はアメリカのトップ・プロデューサー、ティンバランドが手掛けるメインストリーム・ヒップホップ/R&Bを彷彿とさせたことは、歌謡界のみならず、いわゆるクラブ・サイドからも大きな支持を得ることとなった。

 しかし、“結果”を出してしまった以上、より大きな売り上げにつなげるためにEXILEサウンドは「クラブ・ミュージックを標榜したもの」と「歌謡曲路線」の二極化をたどることとなる。

 ATSUSHIとSHUNの加入はEXILEの起爆剤となったが、「歌」をメインに勝負するのであれば、クラブ・シーンからの叩き上げであるパフォーマーの"ダンス"はもはや不必要と見做されかねない。それを回避するため、二極化の一方である「クラブ・ミュージック」のバランスを調整しながらの試行錯誤は、シングルのカップリング曲や同録されたジュニア・ヴァスケスやヘックス・ヘクターといった海外のハウス・クリエイター陣によるリミックスに顕著ではあったが、その最たるものが表面化したのは03年にリリースした9枚目のシングル「LET ME LUV U DOWN」だろう。

 日本のヒップホップ・シーンを黎明期から支えるZeebraとOZROSAURUSのMACCHOをフィーチャリングに迎えた同曲は、HIROが歌謡界へ向けた一種の果たし状と言っても過言ではなかったはずで、オリコン・ランキングも最高位3位という堂々の結果を残し、ミュージック・ビデオにおけるパフォーマーの姿はまるで水を得た魚のようであった。

 そして間髪空けず、キャッチーなZOO「Choo Choo TRAIN」のカヴァーをリリースすることによって、二極化の間を絶妙に縫うようなバランスで均整を保とうとした。だが、より多くの収益を得るための所属レコード会社の意向か、はたまたパフォーマーではなく売り上げの実権を握るボーカリストとリーダーの強い意向か、その後も歌謡曲路線の楽曲が優先されることとなる。

 それでもクラブ・シーンからの叩き上げの意地を見せるべく、挑戦的姿勢を楽曲の随所で見せるEXILEだったが、05年のSHUNの脱退、06年のボーカリストTAKAHIROの新加入によって、エッジーなサウンドから逸脱したEXILEのサウンドは、もはや「パフォーマーが必要なのか?」と思えるほど、ポップでキャッチーなJ-POPへと変貌を遂げていくのであった。

パフォーマー集団EXILEの"あがき"とは?

 だが、EXILEは"パフォーマーが生きる楽曲"="クラブ・ミュージック"を決してあきらめたわけではない。その筆頭格が08年にリリースされた25作目のシングル「24karats -type EX-」だ。

 国内のアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンから絶大な支持を得るプロデューサー、BACHLOGICが手掛けた楽曲は、DOBERMAN INCをラップで起用し、久方ぶりとなるEXILEから送られたクラブ・シーンへのアプローチがふんだんに盛り込まれたサウンドであった(ちなみにDOBERMAN INCはBACHLOGIC全面プロデュースで02年にデビューした5人組ヒップホップ・グループで、現在はP-CHO/KUBO-C/GSの3人で活動している)。

 フィーチャリングで参加したことを契機にLDHと契約を結んだDOBERMAN INCが引き続き参加した09年のシングル「FIREWORKS」(プロデュースは安室奈美恵やCrystal Kayの数多くを手掛けるアトランタ在住の日本人プロデューサー、T.Kura)もそのクオリティの高さがクラブ・シーンでも話題となったが、EXILEのメンバーに“似非ラップ”をさせず(メンバーのMAKIDAIとUSAがRATHER UNIQUE時代にラップを担当していたことはあったが)、それを回避させる手立てとして西のイケメン・ヒップホップ・グループ、DOBERMAN INCをLDHに所属させたのではないか、という憶測が出たほどだった。

 Real Soundに『田中聖と櫻井翔、「ラッパーとしてどっちが上?」議論が再燃 ヒップホップ専門家はどう評価するか』という記事があるが、ある種こういったジャニーズ・ラップにおける"似非感"と差別化を図ることも、HIROなりの最低限の意地なのだろう。

 HIROをはじめEXILEのメンバーに、"クラブから成り上がった日本を代表するパフォーマンス・グループ"という叩き上げ根性がある限り、心の奥底にはダンス・ミュージック、引いてはクラブ・カルチャーが当たり前の日常になってほしいという切なる想いが眠っているはずだ。その想いが叶う日まで、EXILEはポップでキャッチーな楽曲を歌い続け、時にはダンサブルで高水準のクラブ・ミュージックで勝負を挑み、ファン・リスナーを教育させるサイクルを維持しなければならない。そしてそれは、人気に陰りが見える前に完遂させねばならないのだから、じつに悩ましい問題だ。

(音楽ライター/佐藤公郎)

忘年会に向けてマスターすべし!!
厳選! サイゾーが選ぶアゲザイルを挙げザイル

――最近では歌謡曲路線がすっかり定着したEXILEだが、彼らの真骨頂はアゲアゲのクラブ・ミュージックであることは本文でも触れた通り。ここではクラバーたちをも唸らせる"アゲザイル"な名曲TOP5を選定してみた。

1位「FIREWORKS」(09年)
 いまやEXILEのクラブ・ミュージック・アプローチの大部分を担う T.Kura&michico夫妻が手掛けた不朽の名作。カラオケで完璧に歌い上げるには到底困難な譜割りをそつなくこなす、ATSUSHIとTAKAHIROのボーカリストとしてのスキルはさすがの一言。


2位「24karats -type EX-」(07年)
 ヒップホップ・プロデューサー、BACHLOGICとEXILEが邂逅した運命の一曲。そのBACHLOGICが全面プロデュースを担ってきたDOBERMAN INCをラップに起用、後に大胆な路線変更を歩むSoweluをゲスト・ボーカルに招き、有機的なコラボを展開した。


3位「BOW & ARROWS」(12年)
「ミラクル起きる 躓いても起きる 必ず耐える 蘇る エグザイル」と軽快に韻を踏みながらも、しっかりと王者としての決意表明を露わにしている小気味よいダンス・トラックが印象的。プロデュースはT.Kura&michico。


4位「銀河鉄道999」(08年)
 国内のクラブ・ミュージック・シーンで“ジャパニーズ・ハウス”が隆盛を極めていることを見逃さなかったEXILE流ハウス・ミュージックの金字塔。HIROをはじめ、パフォーマーにはハウス・ダンサー出身のメンバーもいるため、EXILE内でも末永く愛されているだろう一曲。


5位「LET ME LUV U DOWN」(03年)
 “新ジャンルの開拓”をキーワードに、EXILEが初めてフィーチャリング・ラッパーをシングルに起用したヒップホップ・フレイヴァーが極めて高い楽曲。今作からおよそ10年後になるが、ATSUSHIのソロ・アルバムの雛形であったとも言える作品。


今すぐ会員登録はこちらから

人気記事ランキング

2024.11.21 UP DATE

無料記事

もっと読む