東映との決裂、前妻の死――謎多き「高倉健」のエイズ死亡説

――数々の芸能スクープをモノにしてきた芸能評論家・二田一比古が、芸能ゴシップの“今昔物語”を語り尽くす!

『高倉健 Blu-ray COLLECTION BOX』(東宝)

「日本人で良かったなと、素直に思いました」

 11月3日、文化勲章親授式に出席した高倉健(82)が受賞の喜びを語った。

 久しぶりに聞けた健さんの生の声でもある。自らを「映画俳優」と語り、映画以外の話はほとんどせず、業界の冠婚葬祭もまず出ない俳優である。

「恩人、仲間など縁のあった人の冠婚葬祭でも公式にはまず出ることはない。公の場が苦手なのでしょうが、一時は“非常識”の声もあったが、健さんらしい生き方として貫いていることで、今ではそうした非難も浴びてない。今回は国から受賞されたものですし、天皇陛下から直接手渡される賞。さすがの健さんも欠席するわけにはいかなかったのでしょう」(スポーツ紙記者)

 すでに二百本以上の映画に主演する高倉健は、誰もが認める日本を代表する映画スターである。筆者もそうであるが、とりわけ団塊世代にとって健さんとは、「青春そのものだった」という人が多い。「網走番外地」や「日本侠客伝」など東映ヤクザ映画で活躍した。当時の映画館は今では信じられない光景があった。

 健さん人気で連日満員の映画館。スクリーンでは、後ろから主人公の健さんに向かって切りつけようとする悪人役がいる。「健さん、危ない!」とスクリーンに向かって場内から声が飛ぶ。健さんが悪人を切り捨てエンドマークが流れると、場内から拍手喝采が自然に起きていた。映画が娯楽だった古き良き時代の話である。ところが――。

「健さんは東映の専属俳優としてスターになったが、ずっとヤクザ役をやることに抵抗を持ちはじめ、東映と決裂するような形で独立した。結果的にはその後『八甲田山』や『幸福の黄色いハンカチ』で俳優人生として大きく花開いた」(映画関係者)

 映画俳優として世間の注目を浴びる一方で、健さんの私生活は謎が深まる一方だった。結婚歴はある。59年に歌手の江利チエミさんと結婚したが、12年後に離婚。当時、駆け出しの芸能記者だった著者も離婚の真相を取材したひとりであるが、「江利さんは未練があったが、健さんのほうから離婚を切り出した」という話が大半を占めた。それを裏付けるように、離婚後の江利さんの生活は荒れていた。「寂しさを紛らわすように部屋で一人酒をしていた」という。

 江利さんはウイスキーを牛乳で割るという飲み方をしていた。ある日の深夜、飲み過ぎて嘔吐。吐いたものが気管支に入り亡くなった。今で言う孤独死だった。偶然だろうが、健さんと何度も共演し、親しかった大原麗子さんも二度の離婚後に自宅で孤独死している。2人の葬儀にも健さんは出席していない。しかし、健さんは後日、ひとりで墓参りをし、毎年の命日には桐箱に入った高級なお線香を届けている。それを「健さんは律義な男。健さん流の律義さです」と人はいう。

 離婚後の健さんは未だに独身。浮いた話のひとつもない。「何年に1回ぐらいしか映画に出ていないし、オフの間、どこでなにをしているのかもわからない。私生活は謎です」と映画関係者も健さんの普段の動向を知らない。

 一時は、「健さんを見た」というだけで記事になると言われた都市伝説的な人である。著者も動向を探ったことがある。青山にあった行きつけの珈琲店。京都河原町の高級洋食店。ハワイには行きつけのベトナム料理店もある。各店内には「健さんルーム」と呼ぶ個室があり、健さん以外は使用できない。そこも最近は来ていないという。もちろん、店の人はいっさい口を閉ざす。

 そんな中、筆者が唯一、健さんを見たのは都内のガソリンスタンドだった。スポーツカーに給油する間、サングラスをかけた健さんを道路の反対側からちらっと見ただけである。そんな話でも芸能マスコミの間では「語り草」になるほどである。当然、健さんと親しい関係者も口は固いが、こんな話を聞いたことがある。

「健さんはオフの間、まず日本にはいない。いるときも完全にプライベートが保てる場所、店だけ。後の大半は海外でのんびりしていると聞きます」 

 あまりに私生活が謎ゆえ、「高倉健死亡説」の話がマスコミを賑わせたことがある。日本でエイズが騒がれた頃のこと。

「フランスの病院で日本人がエイズで亡くなった」という情報が駆けめぐった。一般紙、通信社も取材に当たり、「その日本人は高倉健ではないか」という話になり、マスコミは大慌て。著者もフランスのいくつもの病院に電話を試みたが、フランス語しか通用しない。確かな取材などできるはずもない。結局、ガセネタだったことが判明した。後に映画の会見で「死亡した高倉です」と本人が言って笑いをとったことがある。

 私生活をいっさい口にしないし、オープンにしない俳優をマスコミは必要以上に暴かない。それが芸能マスコミのルールでもある。暗黙のルールを作ったのも高倉健だろう。

 次に健さんが公の場で語るのはいつになるのだろうか。

ふただ・かずひこ
芸能ジャーナリスト。テレビなどでコメンテーターとして活躍するかたわら、安室奈美恵の母顔が娘・奈美恵の生い立ちを綴った「約束」(扶桑社刊)、赤塚不二夫氏の単行本の出版プロデュースなども手がける。青山学院大学法学部卒業後、男性週刊誌を経て、女性誌「微笑」(祥伝社/廃刊)、写真誌「Emma」(文藝春秋/廃刊)の専属スタッフを経て、フリーとして独立。週刊誌やスポーツ新聞などで幅広く活躍する。現在は『おはようコールABC』(朝日放送)、『今日感テレビ』(RKB毎日放送)などにコメンテーターとして出演。

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