利権追求ばかりで患者は置いてけぼり!? 「病院経営」から見た現代医療のウラ側

──学閥に基づく人事権支配、利権の拡大と医療費抑制にしか興味がない厚労省、製薬会社の思惑と薬使用の実態、そして自由診療で問題が噴出する不妊症治療のウラ側──。ニッポンの大病院が抱える“病巣”をえぐる!

『最新 病院のすべて』(学研パブリッシング)

 2013年9月、医療法人「徳洲会」グループの公職選挙法違反事件が発覚した。徳洲会とは、全国に66の病院を含めて280余りの医療施設を展開する日本最大の医療グループで、一族経営のトップである徳田虎雄理事長(10月8日に退任表明)が支配するワンマン経営でも知られている。

 今回の事件は、その御曹司・自民党の徳田毅衆院議員(鹿児島2区)が、12年末の衆議院選での選挙運動に、ボランティアを装った370人以上のグループ内の病院職員を動員、彼らに報酬を支払っていたのではないかというもの。これに対し、東京地検特捜部が捜査に着手したのだ。

 以前から政治がらみの黒い噂が絶えない徳洲会。そのため徳洲会は、一般の医療界からは異端視されている存在だ。しかし一方で徳洲会は、僻地医療に力を入れる、救急患者は絶対受け入れるなど、清廉なイメージも併せ持っている。

 医療とカネ。多くの人を救う医療、といえば耳ざわりは良いが、そのためにはカネが必要だ。そしてカネには、どうしてもダーティなイメージが付きまとう。そこで本企画では、カネ、ビジネスという視点から、現代の大病院が抱える問題を考えてみたい。

旧帝大ヒエラルキーに由来する人事支配構造

 徳洲会グループのような特定の医療法人グループ内の横の連携とはまったく異なるつながりが日本の病院には存在する。それは一般に「大病院」と呼ばれる病床数500~600床以上の病院を舞台とした上下関係のシステムだ。まずは、学閥的な序列をベースとした、大病院における「系列」という視点から、病院を眺めてみよう。

 系列構造の頂点に立つのは、戦前から存在する古い大学病院。つまり旧帝大系7大学と慶應義塾大学だ。特に地方都市では、旧帝大系の大学病院の力は絶大だという。

 関東圏で大きな力を持っているのは、東京大学と慶應大学。有名なところでは、虎の門病院や日本赤十字社医療センター、NTT東日本関東病院などが東大の系列病院。一方の慶大系列では、東京医療センター、済生会中央病院などが挙げられる。そして、これらの系列病院とトップの大学との関係を“系列”たらしめているのが、トップの大学が持つ人事権。それが「ジッツ」という独特の文化である。

 ジッツとは、ドイツ語で「イス」を意味する「sitz」からきている。病院の世界では、特定の大学病院の医局が、医師や教授の派遣先として系列病院に押さえてある「席」を指す。部長や院長、学長といったポストもあるが、一般医師のヒラの席であることも多い。そして、名のある病院に多くのジッツを保持している大学病院の権威はおのずと高くなる。関東、東海、関西をはじめとする各地域における系列構造の特徴は上の表をご覧いただきたいが、ジッツをてこにしたこの支配構造は、かつては大学病院の医局と系列病院とを結びつける、多くの大病院にとってなくてはならない存在であったのだ。

「ジッツがなぜ必要だったかというと、昔は医大の数、医師の数が圧倒的に少なかったからなんです。現在、医学部のある大学・医科大学は日本に80校ありますが、このうち62校は戦後に設立されたもの。だから昔の民間病院は、医師を安定供給してもらうため、その地方の大学病院に頭を下げ、医師を派遣してもらうしかなかった。その代わりに約束されるポストが、ジッツというわけです」(民間病院の勤務医)

 よって派遣元の大学病院には傘下の病院のジッツを埋める義務が生じるが、同時にジッツに医師を派遣してさえいれば感謝もされる。このため以前は、派遣先の病院関係者からの袖の下や謝礼も珍しくはなかったというが、医大が増え、特に都市部において病院の数も増えた現在では、この支配構造は徐々に弱体化しつつあるという。

 そして、その弱体化が決定的なものになったのは、04年。きっかけは、厚生労働省が主導した医師法改正によって導入された「新医師臨床研修制度」である。従来、医大の卒業生は出身大学の医局で研修を受けるのが一般的であり、これこそが、「人材供給源たる大学病院から安定的に医師を派遣する」というジッツによる系列支配構造を可能にする根幹のシステムであった。しかしこの新制度により、出身大学以外の病院でも臨床研修を受けられるように変化。結果、若手医師たちは自分の学びたい医療を学ぶことのできる臨床現場へと自由に移動するようになり、大学病院の医局に入る医師の数は激減したのである。一方で、この新制度の弊害を指摘する声もある。

「派遣元の医局が医師を派遣できなくてジッツが埋まらず、医師不足に悩む病院は増えています。都内ではネームバリューのあるあの都立広尾病院ですら、都立で給料が安そうというイメージだけが先行し、人が足りていないと聞きました。医師が不足すれば、現場の医師の労働環境を過酷にするだけでなく、08年に経営破たんした銚子市立総合病院のように、地方の病院を経営難で閉鎖に追い込むほどの事態を招きます。結局この新制度は、医局から医師を減らし、若い医師が行きたがらない地方病院を苦境に追い込み、結果として地域医療を崩壊させているんですよ」(国立大学の勤務医)

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