東電・政府の”制御下”にない汚染水漏洩問題

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――今年4月に発表された福島第一原発での汚染水漏洩問題は、いまだ収束の気配を見せていない。先のオリンピック招致でのプレゼンテーションにおいて、安倍晋三首相が「The situation is under control(状況は制御下にある)」と発言したことが話題となったが、その実情を国会事故調委員を務めた科学ジャーナリストの田中三彦氏に聞いた。

[今月のゲスト]
田中三彦[科学ジャーナリスト]

神保 今回は福島第一原発の汚染水問題と、4号機の使用済み核燃料プールを取り上げます。最近特に問題になっている汚染水の漏洩問題については、報道されている内容が十分なものかも含め、現状を確認しておきたいと思います。

『原発はなぜ危険か 元設計技師の証言』(岩波新書)

 4号機の使用済み核燃料プールについては、以前と変わらず危険な状態にあり、もし今、再び大きな地震が起こり、既に損傷を受けている建屋が倒壊し、核燃料がプールから外に落ちるようなことがあれば、福島第一原発は手が付けられない状態に陥る危険性がある。原子力技術者の立場から原発の危険性を訴えているアーニー・ガンダーセン氏の表現を借りると、その時は「日本が終わる」のではなく「北半球が終わる」ほどの大きな問題になるという。これまでの計画では、5階にあるプールから1500本を超える核燃料棒を取り出して1階に移す作業を、11月から始めることになっていますが、汚染水問題への対応を見るまでもなく、そのように重大な作業を東電に任せていいのかという疑問を禁じ得ません。しかし、私がその疑問を原子力規制委員会の田中俊一原子力規制委員会委員長にぶつけてみたところ、「普通の核燃料の取り出しと変わらない」との答えが返ってきました。果たして本当にそうなのか。国も規制委員会も、4号機問題がとても面倒なことがわかっているので、かかわりたくなくてこの問題から逃げているだけではないのかも含めて、しっかりと確認していきたいと思います。

宮台 4号機燃料棒取り出しに東電以外の主体がかかわると、責任の所在が変わります。国が主体でやることになれば、失敗した場合の損害賠償責任先も、東電から国へと変わる。東電が損害賠償を払えないから国が肩代わりするという場合と違い、国が損害賠償請求先となった場合は直ちに担当行政官のキャリアに響きます。政治家が強力に音頭取りをしない限り、行政官としてはかかわりたくない道理です。

神保 今回のゲストは元国会事故調査委員で、科学ジャーナリストの田中三彦さんです。田中さんには今年3月にも、福島第一の状況を解説していただきました。まずは、それから今までの半年間を総括していただけますか?

田中 世間的には汚染水問題がクローズアップされていますが、それに伴い、そのほかの重要な問題が報じられなくなっています。私が調査している1号機だけでなく、2号機、3号機についてもわからない部分が多く、また今回話題にする4号機の燃料取り出しという問題についても、ほとんど議論されてない状態。当初は原子力規制委員会に期待していましたが、私から見ると暴走気味で、まるで昔の原子力安全・保安院のようです。

神保 まずは汚染水問題の経緯を確認しましょう。

●福島第一原発汚染水問題の経緯
4月6日 東電、地下貯水槽から約120トン漏水を発表
4月11日 汚染水移送の配管から約22トン漏水
4月16日 地下貯水槽の汚染水を地上タンクに移送開始
5月13日 東電、対策示すも先送り
5月31日 東電、海側観測用井戸の高濃度放射性物質検出を公開せず
6月5日 移送先の地上タンクで約1リットル漏水
6月17日 東電、原子力規制庁へ放射性物質検出を報告
7月22日 東電、放射能汚染水の海洋流出を発表
8月20日 東電、貯蔵タンクから高濃度汚染水約30トンの漏水を発表
8月28日 原子力規制委員会、レベル3(重大な異常事象)に引き上げ
8月28日 相馬双葉、いわき市両漁協の試験操業開始延期を正式決定
8月31日 タンクから最大毎時約1800ミリシーベルトを測定
9月3日政府、汚染水対策の基本方針発表470億円の国費投入へ
9月4日福島原発告訴団、広瀬直己社長ら東電幹部32人を告発

神保 この問題を考える上でまず忘れてはならないのが、現在も原子炉を普通に冷却できているのではなく異常な冷やし方をしているという大前提があることです。綱渡りのようなやり方で辛うじて冷やせている、と言い換えてもいいかもしれません。一応、冷却システムができていて、水は循環されているような言い方をされていますが、実際には密閉されたシステムの中を冷却水が循環しているのではなく、穴の空いた格納容器からジャバジャバこぼれ出て、建屋のコンクリートの土台に溜まった水を汲み上げて、全長で4キロにもなるホースで循環しているだけです。そんな風だから、建屋下のコンクリートのひび割れ部分から、地下水が自由に出入りしていると見られています。それが今回の汚染水問題の根底にあります。

田中 汚染水の問題は、ここでまとめた経緯の前半に出てくる「地下」の問題と、8月20日に発表された貯蔵タンクからの漏水、つまり「地上」の問題に分けて考える必要があります。まずは「地下」の問題。関係の深い「循環注水冷却システム」について、まず簡単に説明しておきます。

 原子炉とは本来、非常に密閉性の高い容器ですが、ここに水を入れるとなぜか下に漏れるという事態になってしまった。その外側で原子炉圧力容器を取り囲んでいる、巨大なフラスコ容器のような「原子炉格納容器」があるのですが、これもどこからか水が漏れており、原子炉建屋とタービン建屋の地下に水が溜まってしまい、格納容器の水位が上がっていかない状態です。そこで、建屋の地下に溜まった汚染水を吸い上げてセシウムをろ過し、さらに淡水化して原子炉に戻すという循環システムを採っている。

 神保さんがおっしゃったように、大きな敷地の中を這い回るこのシステムは、ホースの総延長が4キロあります。これがおかしな状況になっていて、1~3号機に一日合計400トンの水を注水していますが、それが倍の800トンになって戻ってきている。そして、余分の400トンはタンクに入れています。つまり、どこかに穴が空いていて地下水が流入しているようなのですが、それがよくわかっていない。

神保 400トン増えているからといって、単純に400トンの地下水が流入しているとは限りません。例えば、汚染水が200トン地下水に流出する一方で、地下水が600トン流入した結果、都合400トン増えていてもおかしくはないですよね。もしそうだとすると、地下水も汚染されていることになり、別の問題が生じていることにもなります。

田中 それもあり得ます。余分な水を貯めておくタンクは、最も容量の大きいもので約1000トン。高さも幅も約10メートルほどのものですが、これが2日でほぼいっぱいになるため、タンクを作り続けなければならない状況です。

 問題は「地下水との接触の仕方がわからない」ということ。とにかく、循環の中に地下水が割り込んでいることは間違いないが、接触の仕方がわからないから、海に流れている地下水が汚染されていないかどうかも判断できない。東電は「汚染されていない」と考えているようですが、十分に調査した結果ではありません。

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