日本国内に点在する朝鮮学校の頂点が「朝鮮大学校」だ。多くの自然が残り、大学都市として多数の大学がそびえ立つ東京小平に設置されている。だが、授業内容や学生生活は意外に知られていない――。
(写真/江森康之)
座談会出席者は、いずれも30代後半の朝鮮大学校卒業生
――今回は、東京小平市にある朝鮮学校の最高教育機関・朝鮮大学校のOBに集まっていただきました。日本のタブー……というテーマはあるにせよ(苦笑)、普段うかがい知れない朝鮮大学校の基本のキから、お伺いできればと。
A まず話しておきたいのは、朝鮮大学校は、日本の文部科学省から大学の認可を受けていないので、法律上は各種学校扱いです。あと、在日本朝鮮人総聯合会(以下、総連)と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)からの指導や支援を受けているのは、これまでも報じられてきた通り、周知の事実です。朝鮮学校の「最高学府」という位置づけなので、大学の目的ははっきりしており、総連の民族幹部養成基地ということ。大学に入って初めて聞かされた単語だったけれども、これに抵抗はなかった。そういう場所だって、なんとなくわかっていましたからね。
B 俺は「民族幹部養成基地」って聞いたときは、正直辞めたいと思ったよ(笑)。でも、教育の目的と方針がこれだけハッキリしているのは「朝鮮大学校」か、日本の「防衛大学校」かって、在学中、笑いながら話していたのを覚えている。組織幹部の育成うんぬんなど、防衛大学校のサイトを見ながら、朝鮮大とあんまり変わらないことやっているんだなって(笑)。
C 朝鮮大の卒業生が総連を支えていくっていうのは、ひとつの使命ではあるよね。朝鮮学校の教師も朝鮮大の卒業生から出るんだから、大学の目的がブレることはないし、ブレてはいけないんだと思う。ただ、自分の同級生は誰も民族幹部にはなっていない現状はある(笑)。
A 確かに(笑)。幹部候補生は一部の卒業生だし、ほとんどはそうならないかな。4年間のキャンパスライフは案外、日本の大学と変わらないって想像してくれたほうがいいかも。だから、「閉鎖的な学校」だとか「思想教育や反日教育ばっかりやっている」なんて思われるのは腑に落ちない。でもそれって大学があまりにも知られていないというか、結局は閉鎖的な部分もあったりするからなんだよね。もっと外に発信するような活動が活発にならないといけないんだけど。
B でも、今は昔よりも開けた大学になっているって聞くよ。大学内にある芝生のグラウンドはサッカー部の関東大学リーグの試合会場にもなっているし、グラウンドを一般市民に開放したり、日本の大学との学術的な交流も増えたりして、しばらく見ないうちにいろいろと変わってきている面はあるよ。そういえば現役時代に、日本の主体思想(北朝鮮の政治思想)研究会との交流もあったな。自分たちよりも何倍も北朝鮮のことに詳しくてビックリした。朝鮮半島の伝説的な動物を描いた映画『プルガサリ』の半券チケットを持っている人がいて、「どうですかこれ」って嬉しそうに見せられたときには反応に困ったよ(笑)。あとは北朝鮮の切手コレクションを、大事に持っている人がいたなぁ。すごく研究熱心というか、マニアな人が多い印象だった。朝鮮大出身者からすれば、すごくありがたい人たちだよ。そういえば、年に1回、学園祭があって、日本人にも来てもらっているよね。数年前にアントニオ猪木がゲストで来て『朝・日友好』を訴えていったけれど、お約束通り「1、2、3ダー!」を叫んでいったことに、朝鮮大も変わったなって思った(笑)。
芸能人から文化人スポーツ選手など輩出
――そもそもの話なのですが、朝鮮大の受験って難しいんですか?また、どういう人が入学するんでしょうか?
A 受験科目は日本の大学とほぼ変わらないとイメージしてください。難易度を聞かれると、比べようがないのですが、基本的にはそんなに難しくはないはず。そもそも、数少ない在日コリアンが受験するわけですから、よっぽど成績が悪くない限り、落ちることはまずないって言っていいでしょう。受験するのは朝鮮高級学校を卒業した学生です。一部、日本の高校を卒業した子もいます。朝鮮学校の生徒って、小、中、高とエスカレーター式に上がっていくので、受験戦争を知らないんですよ。だから朝鮮大の入試が初めての受験って子がほとんどですよ。
――なるほど。では、学生数や学部、授業内容やクラブ活動などはいかがでしょうか?
B おそらく、現在の学生数は約800人。10数年前までは倍の1600人ほどいたそうですが、年々少なくなっています。少子化により学生数が減るのは日本も同じだと思うけれど、グローバル社会っていわれる現代だから在日コリアンの生活や考え方が多様化してきたっていうのはある。朝鮮高級学校を卒業後、日本の大学に入る人も多くなってきてるしね。
C 学部は全部で7つあります。政治経済学部(政治経済学科、法律学科)、文学歴史学部(語文学科、歴史地理学科)、経営学部、外国語学部(英語学科、日本語学科)、理工学部(理学科、電子情報工学科)、教育学部(教育学科、保育科、音楽科、美術科)、体育学部、短期学部(生活科学科、情報経理科)。授業は学部によって変わるよね。朝鮮大ならではの科目といえば、「現代朝鮮革命歴史」が必修なことかな。簡単に言うと、いわゆる金日成主席時代から続く、北朝鮮の現代歴史について。これを学ぶのは朝鮮大だから、あって当然だと感じている学生が多いと思う。それを真面目に学んでいるかどうかは、かなり個人差があるけど(笑)。あと、日本語の授業以外、講義はすべて朝鮮語で行われるのも朝鮮大ならではでしょう。
A 朝鮮大の名誉のためにも言っておくけれど、講義の内容はそこそこレベルが高いと思う。朝鮮大の先生は日本の有名な大学院を卒業している人がほとんどだし、外国語学部には欧米の外国人講師もいる。政治経済学部の法律学科は、日本人の講師も教えている。なぜか袴みたいなのを着てくる日本人の先生もいた記憶も。とはいえ、司法書士や弁護士が誕生しているのは、自分たちがいた時代には考えられなかったな。そういう意味では、学生の偏差値も下から上まで幅広い(笑)。どこの日本の大学でも同じだと思うけれど、勉強するやつはするし、しないやつはしないってことかな。
B クラブ活動も活発だ。サッカー部、ラグビー部、空手部、ボクシング部、バスケットボール部、バレーボール部、テコンドー部、柔道部、野球部、体操部、新体操部、舞踊部、吹奏楽部まで幅広い。最近では、サッカー部出身で北朝鮮代表のチョン・テセ(韓国・水原三星所属)が一番有名かもしれないね。ボクシング部出身で日本ランカーのプロボクサーもいる。あ、芸能人でひとりいた! セレブタレントのソンミも、確か卒業生だったと聞いているよ。
A え、ソンミってウチらの後輩になるの!?
C そうみたいだよ(笑)。あと、テレビでよく北朝鮮のことを話す『コリア・レポート』の辺 真一が卒業生なのもウチらの間では有名だけど、あの人は在日の間ではかなり嫌われているよね。確か北朝鮮への渡航が許されないから、平壌に取材で行けないのに、よくあれだけ堂々としゃべれるもんだよ。あの人が知っている北朝鮮は、もう何十年も前の話。テレビの仕事はギャラがいいから出ているんだろうけれど、そこは百歩譲ったとしても、ジャーナリストなら現地に取材に行ってから話してくれよって思う。
B それには同感だよ(笑)。