──自宅の庭で自らの首吊りを17年間見せてきたパフォーマー・首くくり栲象。60代半ばを越えた今も「首吊り」は毎日欠かせない日課である。
(写真/酒井 透)
「首吊りは、自分の全人格にかかわること」
白髪交じりの頭を掻いて、男は笑った。彼の名は首くくり栲象。1969年から、都内の画廊を中心に首吊り芸を続けてきた、知る人ぞ知るパフォーマーだ。17年ほど前から、借家の敷地を「庭劇場」と銘打ち、観客に毎月開放。椿の枝で首をくくっている。顔全体の筋肉を伸びきらせ、涎をしとどに垂らし、枝から死体のようにブラ下がる――。そんな姿を前にすると、つい年間3万人前後の自殺者数を抱える現代日本の社会状況との関連で語ってしまいそうだが、彼は現実世界で起こる数々の自殺との関連を否定する。
「僕自身は、このパフォーマンスに関して、死に対するアプローチはまったく念頭に入れていないんです。まれに『自殺の瀬戸際にあるんじゃないか』って人も見に来てくれますよ。観客が自分の思いを投影して観てくれるのはすごくうれしいことです。でも僕の表現は、基本的には死ではなくて肉体の動きそのものなんです」