山口“限界集落殺人”に見る「典型的な日本の殺人」

法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の“意図”──。

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「山口連続殺人放火事件」
2013年7月21日、山口県周南市の山間部の集落で2件の火災が発生、焼け跡から男女3人の遺体が、翌22日には別の住宅でも男女2人の遺体が発見された。いずれも頭を殴打されて殺害されていたことから、警察は付近の住民で行方不明になっていた保見光成(63)を捜索、26日に近くの山道で逮捕した。保見容疑者と被害者の間には、飼い犬や農薬散布などをめぐるトラブルがあったという。

『津山事件の真実』(フローマネジメント)

 2013年7月、山口県周南市で発生した連続殺人放火事件。住民わずか8世帯14人の“限界集落”において、住民のひとりである63歳の男が、一夜のうちに知り合いの71~80歳の男女5人を殺害して火を放ったこの惨劇を、メディアは連日大々的に報じました。容疑者の自宅に「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」と書かれた貼り紙や上半身裸のマネキン人形があったことを猟奇的なものとして取り上げたり、「田舎の閉鎖性が生んだ大量殺人」という見解を前提に、横溝正史の推理小説『八つ墓村』(1938年に岡山県の集落で21歳の男が住民30人を殺害した「津山事件」がモデル)になぞらえたりする報道も目立ちました。

 しかし、容疑者や犯行の異常性を強調するそうした報道を見るにつけ、私は強い違和感を覚えずにはいられませんでした。なぜなら今回の事件は、稀有なものでないどころか、「特異性がないのが特徴」とさえいえるほど、我が国において典型的な殺人のひとつであるといえるからです。なぜそういえるのか? 今回はそのあたりについて語るとしましょう。

 まずは、報道から推定可能な範囲で、今回の事件を3つの観点から分析し、犯罪学的に見てそれらがいかに“普通”であるかを解説したいと思います。1点目は犯行の動機について。容疑者の男の供述や近隣住民のコメントから、男がなんらかのトラブルによって“村八分”のような孤立状態に追い込まれ、かつそこから抜け出せない状況であったため、被害者全員に対する恨みの感情がついに爆発した、という見方はまず間違いないところでしょう。

 実はこの種の動機による殺人、すなわち殺人の加害者が日常生活における近隣トラブルから被害者意識を増幅させ、ついに決行に至るというパターンこそ、日本では最も一般的な殺人形態のひとつなのです。戦前から50年代末に日本で発生したあらゆる殺人をタイプ別に収録した冊子で、司法研修所の教材として使われていた『殺人の罪に関する量刑資料』(司法研修所、59年)では、「近隣者間の反目紛争に起因する殺人」なる項目にまとめられていますが、そういうひとつのカテゴリを形成するほど、今回の事件の動機はごくありふれたものであるわけです。

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