──日本でも数多くのファンを持つ海外ドラマ。これまで多くの話題作が放映され、ソフト化されてきたが、中には過激すぎるものも多いようで……。そんな海外ドラマの中から、“行き過ぎた表現”に挑んだ話題作をピックアップ!
ケビン・ベーコンのテレビドラマシリーズ初出演で話題の『ザ・フォロイング』。(c) Warner Bros. Entertainment Inc.
かつて大ヒットを記録した『冬のソナタ』に代表される韓流ドラマや『24 -TWENTY FOUR-』『LOST』といったアメリカドラマなど、日本でも海外ドラマは高い支持を得ている。特にアメリカドラマは、その息もつかせぬ展開や壮大なスケールに、虜になった向きも少なくないだろうが、それ以外にも日本では考えられないブッ飛んだ作品はまだまだある。
こうした“良質”かつ“過激”なテレビドラマが量産される背景について、海外ドラマ評論家の池田敏氏は次のように話す。
「アメリカでは80年代に、ニュース専門放送局の『CNN』、音楽専門チャンネルの『MTV』など、次々とケーブルテレビ局(以下、ケーブル局)が登場。日本よりもはるか昔から多チャンネル化が進行していました。新作映画などを中心に放送していた『HBO』もそのひとつで、同局が90年代末に独自に制作した『セックス・アンド・ザ・シティ』『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』という2つのドラマが大ヒット。それをきっかけに、アメリカのケーブル局はオリジナルドラマを積極的に制作するようになりました」
両作についてはあらためて説明するまでもないだろうが、映画・海外ドラマ専門ライターのなかざわひでゆき氏にも解説願おう。
「『ザ・ソプラノズ』はマフィアという反社会集団をモチーフに、日本の地上波ではとても放送できないようなバイオレンス、過激なセリフや性描写などで話題になりました。一方『セックス~』は、現代女性の性観念やその周辺事情をこれまでになく赤裸々に描き、世界中でヒットを飛ばしています。この2作品が、それまでのテレビドラマのタブーを打ち破ったのは間違いないでしょうね。その後、ケーブル局では過激かつ質の高いドラマが多く作られるようになり、『エミー賞』などの賞レースの動きを見ても、ここ10年ほどテレビドラマのジャンルにおいては、ケーブル局がNBC、CBS、ABCなどのネット局を圧倒している状況です」
ケーブル局がタブーを恐れず作品を制作できる背景には、収益構造の違いもあるという。
「過激なドラマが多いケーブル局のプレミアムチャンネルなどは、月額15ドルといった視聴料金をもとに運営されているので、いわゆるネット局のようなスポンサーに配慮する必要がない。そしてアメリカのケーブル局は映画会社の傘下にあることが多く、映画同様、作品の海外輸出も比較的容易にできる。実際、最近のアメリカのテレビドラマには、100カ国以上に輸出されているものもあり、そこで得た莫大な収益をもとに、豪華なドラマが制作されています。作品1時間当たりに3億円ほどをかけるのは普通で、スティーブン・スピルバーグらが製作総指揮の『ザ・パシフィック』には、10時間のドラマに約200億円がつぎ込まれました(笑)」(池田氏)
そんなアメリカのテレビドラマのスケールに圧倒される作品が『ゲーム・オブ・スローンズ』【1】。7つの王国から成る大陸を舞台に、覇権争いに絡む者たちの、愛と野望を過激な描写満載で描くスペクタクル・アクション巨編だ。
「『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』のようなファンタジーに分類できますが、このドラマは大人向けの要素も多い。野蛮な部族はメチャクチャな暴力を振るい、女性もバンバン脱ぎます(笑)。12年に『世界で最も美しい顔』で第1位に輝いたエミリア・クラークも、第1話から脱いでいますよ」(同)
前出のなかざわ氏も、これに続く。
「シーズン1、2を通じてモロッコ、マルタ島、北アイルランドなど世界の各地で撮影が行われており、スケールの壮大さはケタ違い。自分の利益しか考えない人間の不埒さや残虐性、正直で誠実な人間こそが不幸な目に遭う世の中の悲哀も巧みに描かれています。また、スケールと過激さでは『スパルタカス』【2】も負けていません。暴力や淫行が横行していた古代社会を舞台にした、血みどろのバイオレンスあり、赤裸々なセックス描写ありの作品で、『テレビドラマで、よくここまでやるな(笑)』とあきれるほどです。日本での放送時には、さすがに一部でボカシが入っていました」
このように従来は映画で描かれていたような題材も、テレビドラマで扱われるようになり、ジャンルの多様化も進行中。『ウォーキング・デッド』【3】は、映画ではマニアも多いゾンビを扱ったテレビドラマだ。
「体の一部が欠けているゾンビがいたり、撃たれて体が吹っ飛んだり、生々しい襲撃シーンが描かれていたりと、ゾンビ映画マニアも納得できるグロさです。リーマンショック以降の暗く沈んだアメリカの世相を、ゾンビというメタファーを利用して描いている……とも見られますね」(前出・池田氏)
一方、ホラーを巧みに取り込んだのが、『アメリカン・ホラー・ストーリー』【4】。『glee/グリー』で人気を博したライアン・マーフィーの制作で、霊の棲む呪われた洋館を舞台にした“エロティック・サイコスリラー”だ。
「殺人、不倫、近親相姦といった人間のさまざまな業やダークサイドを、巧みにストーリーの中に組み込んだ内容で、幽霊よりも人間の冷めた部分のほうがよっぽど怖いと思える作品ですね。『グリー』では身障者や性的マイノリティの人が、そのハンデを乗り越える前向きな展開が支持されましたが、本作はその真逆。直視しがたいものを、あえて前面に押し出しています」(なかざわ氏)