法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の“意図”──。
今月のニュース
「ストーカー規制法改正」
続発するストーカー殺人事件を受け、2013年6月、ストーカー規制法の一部が改正された。主な改正点は、これまで「待ち伏せ」「無言電話」などに限られていた規制対象のつきまとい行為に「連続メール」を追加することや、ストーカー行為に対する警告や禁止命令を出す権限を、被害者だけでなく加害者の居住地の警察や公安委員会にも与えることなど。同法の改正は、00年の成立以来初めてとなる。
『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(新潮文庫)
2013年6月26日、ストーカー規制法が改正され、規制対象となる「つきまとい行為」に「連続してメールを送信する行為」が追加されるなどしたことが大きく報じられました。この法改正の直接のきっかけになったといわれるのが、12年11月、40歳の男が元交際相手を刺殺後に自殺した逗子ストーカー殺人事件。この事件において被害者は、加害者から1400通以上ものメールを送りつけられていました。にもかかわらず警察は、同法の規制対象にメールが含まれていなかったことから立件せず、結果、事件を未然に防ぐことができなかったと指弾されました。
同様の警察バッシングは、11年12月、27歳の男が元交際相手の母と祖母を刺殺した長崎ストーカー殺人事件でも見られました。その後13年6月には犯人が死刑判決を受けることとなるこの事件では、被害の相談を受けていた習志野署の署員が多忙を理由に被害届の受理を先送りし、その10日後に事件が発生。後日、被害届不受理の理由が慰安旅行の直前だったからであったことが発覚したのです。
このような法の不備と警察の一見お粗末な対応は、重大なストーカー事件が起こるたびにやり玉に挙げられ、司法はそのつど対応を迫られてきました。そもそも00年に施行されたストーカー規制法自体、99年10月に発生した桶川ストーカー殺人事件において、被害者から何度も相談を受けながら、警察が事態の切迫性を認識せずに放置し、最悪の結果を招いてしまったことに対する厳しい世論を受けて議員立法されたものです。日本におけるストーカー対策は、その初期段階から現在に至るまで、はた目には非常に場当たり的に進められてきたように見えるのも当然でしょう。
ですが私は、ことストーカー対策に限っていえば、警察は全体としてむしろよくやっており、ストーカー規制法についても、後述しますがそれなりに工夫の跡が見て取れると評価しています。ならばなぜ、ストーカー事案の認知件数は増え続け、重大なストーカー事件が繰り返されるのか。それはストーカーが、現代社会において非常に発生しやすい、比較的新しいタイプの犯罪であるからであり、さらにいえば、本質的にきわめて対応の難しいものであるからです。今回はそのあたりの事情について、社会状況や警察の実情などを俯瞰しつつ解説しましょう。