デモは民度が高まりつつある証拠!激変する政治経済の課題と今後

──ここでは、30年にわたるブラジルウォッチャーにして日本経済新聞社顧問である和田昌親氏に、ブラジルにおける政治・経済の過去から現在、そして未来についてお話を伺った。

街中で「W杯なんていらない!」と抗議活動をする市民。(写真/渡辺航滋)

 長い間、政治的・経済的に不安定で、社会矛盾も根深かったブラジル。しかし、今、ブラジルは“風格ある大国”に変貌しつつある最中だという。『ブラジルの流儀』(中公新書)の編著者である和田昌親氏が考えるブラジルとは?

──和田さんが日経新聞のサンパウロ特派員として駐在されていたのは何年頃のことですか?

和田昌親(以下、和田) 1982年から85年にかけてです。債務危機の真っ最中で、ラテンアメリカの国々がいっせいにデフォルト宣言しちゃった頃です。

──実際に駐在されていたのはだいぶ前なのに、以降もブラジルに注目し続ける理由は?

和田 ブラジル人は行儀は悪い、約束は守らない、てんでいい加減だし、「あんな国放っておけばいいじゃないか!」って人からよく言われるんですけどね(笑)。どうにも気になって仕方ない。でも、昔から言うじゃないですか、「出来の悪い息子ほど可愛い」って。

──最近のブラジルがらみのニュースといえば、6月上旬にサンパウロから始まり全国に波及した、あの100万人規模の反政府デモですが、どのようにご覧になっていますか?

和田 物価が上がっている、インフレが昂進している、だから国民が反発している、という見方はちょっと単純過ぎるかなと。80~90年代のブラジルのインフレって、本当にすさまじかった。インフレ率2000%なんて時期だってあったんだから。その頃、「バスに乗る時は必ず先払いしろ、降りる頃には運賃が値上がりしてるぞ」ってジョークがあったくらい(笑)。それに比べたら、今のインフレなんて大したものじゃない。それに、約200年に及ぶブラジルの歴史において(2022年で建国200周年)、こんなにインフレが収まっている時期ってないんです。ここ10年くらいはインフレ率も一桁台をキープしているし、地下鉄の運賃が上がったって言っても、せいぜい10円、20円くらいのものですよ。

──今回のデモは、ブラジルという国にとって、どういう意味を持っているのでしょうか?

和田 政治的には、64~85年まで約20年間、軍が政権を握っていました。軍事政権が終わり、そこからブラジルの民主化が始まった。民主主義が完全に浸透するには時間がかかる。ようやく浸透してきたのが今、という見方ができます。つまり、今回のデモは、ブラジルにおける“民主主義の発露”だと言えますね。

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