──前特集まで見てきた通り、圧倒的な人気を見せつけた村上春樹の新刊フィーバー。こうして特集を組んでいる小誌も例外ではないが(苦笑)、各種メディアもその勢いに群がっている。ここでは、紙メディアが取り組んだ、寄稿タイプの各種書評をまとめてレビューしてみたい。
【1】紙媒体最速? 書評というよりあらすじ紹介
「朝日新聞」4月14日朝刊
発行/朝日新聞 評者/佐々木敦(批評家)
朝日新聞の書評欄は毎週日曜日。その中で、5人の筆者が週替わりで担当する「売れている本」のコーナーにてピックアップ。せっかくの佐々木敦氏の評ではあるが、ほぼ作品紹介に徹しているのは発売間もないためというネタバレ配慮なのか。ちなみに、佐々木氏のきっちりした評は「文学界」6月号で読める。
【2】中江有里の“彩り”ポジション感が半端ない
「朝日新聞」4月23日朝刊
発行/朝日新聞 評者/中江有里(女優)、市川真人(文芸批評家)、鴻巣友季子(翻訳家)、加藤典洋(文芸評論家)
『王様のブランチ』(TBS)ブックコメンテーターでおなじみの市川真人氏も、『村上春樹イエローページ』(幻冬舎)など数々の解説書を書き、村上春樹評といえばこの人、という加藤典洋氏も好意的な評価。それゆえ鴻巣氏の「やれやれ」と、知らない人からは中江有里の唐突さが目につく。
【3】ブームにはうんざりだが、作品は肯定
「朝日新聞」4月24日朝刊
発行/朝日新聞 評者/松浦寿輝(小説家)
このお祭り騒ぎにストレートに呆れている数少ない書評。冒頭部から「発売一週間で百万部を超え、どこまで伸びるかわからないという。何やら薄気味の悪いことではある」と述べる。ただし作品については肯定的。評者はこれまでに村上批判もしてきた大作家だが、本作は褒めている。
【4】「ネタバレ」でネットからはブーイング
「毎日新聞」4月21日東京朝刊
発行/毎日新聞 評者/鴻巣友季子(翻訳家)
かなり内容の核心部に触れながら、村上作品に通底するダメなところを揶揄するタッチ。ネットにも公開されたが、ツイッターなどではネタバレを糾弾されていた。確かにそれは書評の難しさではあるが、記事をクリックするとき、ネタバレの可能性は微塵も考慮しなかったのだろうか。不思議である。
【5】編集部も人選をもうちょっと考えたほうが……
「東京新聞」4月21日朝刊
発行/東京新聞 評者/横尾和博(評論家)
ツッコミを入れだしたらキリがない、書評と呼ぶにはかなり際どい一本。評者の政治的思想・態度が大いに反映されている。確かに東京新聞は震災以降、原発問題などに果敢に取り組む数少ない大手紙だが、小説の書評にまでそれを持ち込まなくてもよかったのではないか。
【6】フェミニズムからの皮肉は健在
「週刊朝日」2013年5月3・10日合併号
発行/朝日新聞出版 評者/斎藤美奈子(文芸批評家)、長薗安浩(小説家)、古川日出男(小説家)、中江有里(女優)
『紅一点論』『妊娠小説』などで知られるフェミニズム系の文芸評論家として、斎藤美奈子はやはり村上春樹への皮肉を忘れない。「まぁ普通の小説」という感想から始まりつつも、「女の役割が男の支援者か性的対象だっていうあたりが古くさい」とバッサリ斬って締める。
【7】子どもはわかってくれない!?
「週刊新潮」2013年5月2・9日合併号
発行/新潮社 評者/福田和也(文芸評論家)
自身の連載「世間の値打ち」で大絶賛。辛口な福田和也氏ではあるが、話題になった『作家の値うち』(00年/飛鳥新社)でも村上春樹の小説は高く評価しているので、それも当然か。なお福田氏は、「SPA!」(扶桑社)の坪内祐三との対談連載でも褒めている。気に入ったのだろうか。
【8】みたびの鴻巣友季子! 揶揄は密やかに
「文學界」
発行/文藝春秋 評者/鴻巣友季子(翻訳家)
スラブ文学者の沼野充義氏、思想家の内田樹氏、仏文学者の鈴村和成氏と並んで、みたび鴻巣氏が書評を寄せている。その内容は本文に譲るが、『村上春樹をめぐる冒険』という特集タイトルは、編集者なら誰もが一度は思いつくベタ中のベタであろう。もう少し捻らなくてよかったのだろうか。