──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。
第33回テーマ「経済効果で図れないTPPの是非」
[今月の副読本]
『経済学に何ができるか』
猪木武徳/中公新書(12年)/861円
経済学は、人間社会の何を、どこまで説明できるのか? 多くの価値観が混在する現代社会において、「経済学の可能性を考える」という視座を与える一冊。2010年4月より朝日新聞で始まった連載がもとになっている。
TPPをめぐる議論が激しくなってきました。3月15日に安倍首相がTPPの交渉に参加することを正式に表明したからです。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とは、太平洋をかこむ国々が輸入品にかかる関税などをなくすことで、モノやお金が自由にゆきかう経済圏をつくろう、という取り組みのことです。現在の交渉参加国は、アメリカやオーストラリア、カナダ、メキシコ、シンガポール、ブルネイ、ベトナムなど11カ国です。安倍首相の交渉参加表明は、この11カ国に日本も加わろうということですが、今後このTPPがどのようなかたちで発効することになるのか、そして日本ははたしてTPP加盟国になるのかどうかは、まだまったくわかりません。というのも、まず、現在の交渉参加国のあいだでそもそもどのような議論がなされているのかが、これから交渉に加わろうとする日本には明らかにされていないからです。さらに、TPPに参加すべきか否かをめぐって国内の意見が大きく割れているからです。与党の自民党のなかですら賛否が激しくぶつかりあっているほどです。読者のなかにも、参加したほうがいいのかしないほうがいいのか、考えあぐねている人は少なくないでしょう。
TPPに参加すべきだと考える人たちは、それによって経済が活性化し、日本の経済成長につながると主張しています。たしかに自由貿易圏をめざすTPPに参加すれば、いまより海外への輸出がしやすくなります。また海外から日本への投資も増えるので、それによっても雇用が新たにうみだされるでしょう。さらには、農産物を含めた安い生産品が日本に入ってくるので、消費者は安く商品を買うことができるようになりますし、生産する側も外国製品との競争に負けないために生産性を向上させたり、新しい商品を開発したりするよう努力するでしょう。