もはやどんな事物もテクノロジーと無関係には存在できないこのご時世。政治経済、芸能、報道、メディア、アイドル、文壇、論壇などなど、各種業界だってむろん無縁ではいられない──ということで、毎月多彩すぎる賢者たちが、あの業界とテクノロジーの交錯地点をルック!
[今月の業界と担当者]
戦闘機業界/丸屋九兵衛(「bmr」編集長/雑学コメンテイター)
軍事大国・アメリカが莫大なお金と時間をかけて開発する戦闘機。ここではあえて「戦闘機業界」と的を絞って、その最先端事情を追ってみたい。しかも、今回「戦闘機業界」を分析するのは、ブラックミュージックの専門サイト「bmr」編集長の丸屋九兵衛氏。果たして、丸屋氏が論ずる戦闘機の現在とは?
曲線を随所に取り入れたデザインのF-16。良好な視界を確保する水滴型キャノピーも特徴だった。(写真/アメリカ空軍)
1999年にマライア・キャリーが放った「I Still Believe」というヒット。空軍基地慰問をテーマとした同曲のビデオで、マライアは(なぜか)戦闘機のボディ上で仁王立ちになって絶唱する。その戦闘機こそが、当時まだ基地で試験運用中だった最新鋭機、F-22だった……。
このF-22ラプターは時代の最先端、ステルス性を追求する通称「第5世代」の最強戦闘機。これがもう、他の追随を許さないくらい、圧倒的に強い。
それ以前、ステルスとは無縁だった「第4世代」戦闘機で最も先鋭的なF-16ファイティング・ファルコンを見てみよう。ボディと主翼が流れるようにつながる、洗練された形状だ。一方、F-22は非常にカクカク。それまでのデザインの傾向に逆らう、非現実的な形とも映る。ほとんどの面が直線ばかり、しかもそれらの直線は可能な限り平行になるような配置。それもこれも、目的はステルス性の向上にある。直線/平行主義の設計は、敵のレーダー波を乱反射しないように計算されたもの。さらに、機体を構成する素材自体がレーダー波を吸収するスグレモノだ。結果、全長20メートルほどの機体なのに、レーダーではスズメ大にしか映らないという、驚異の隠密仕様となっている。
そしてF-22は、ただステルスなだけではない。あえて航空力学的に不安定な形状を採用することで戦闘時に小回りが利くようにする(その分、通常飛行時にグラグラするが、それはコンピュータで徹底的に制御)という革命的な設計思想をとことんまで突き詰めた結果、機動性も凄まじいものとなっている。
軍備の要は戦闘機。その戦闘機が強すぎて強すぎて、ほかのどんな国家も、もはやアメリカと直接対決なんてできないのだ。テロ以外の手段では。