――もはや説明不要のAKB48を中心にしたアイドルブーム。その恩恵を受けるべく、ここ数年は各芸能事務所をはじめ、一般企業までもがその運営に乗り出した。しかし、ブームも昨年の後半から徐々に下火になりつつある今、アイドルビジネスで成功できた事務所はどれほどあったのか──その明暗を見ていきたい。
(絵/藤本康生)
事務所タイプ【1】
「正直早くグループを卒業させたい!」
AKB48メンバーが所属する事務所
AKB48のメンバーを所属させる大手芸能事務所たち。太田プロやホリプロのように、メンバーの個人売りにシフトし始めた事務所の未来は明るいが、藤江れいなを採ったイトーカンパニーなど、メンバーによって明暗ははっきり。
(絵/藤本康生)
事務所タイプ【2】
「ブームが去ろうがどこ吹く風」
タレント育成システムのある事務所
モーニング娘。のアップフロント、SUPER☆GiRLSのエイベックス・マネジメント、X21のオスカー、E-GirlsのLDHと、AKBブームに便乗するでもなく、独自の育成システムを利用した事務所は、今後に不安なし!?
(絵/藤本康生)
事務所タイプ【3】
「売れてからの身の振り方が重要?」
独自路線のサブカルアイドル所属事務所
Perfumeでいち早く、「アイドルからアーティストに時間をかけて育てる」スキームを築いたアミューズは今後も安泰。ももいろクローバーZをはじめ、社内が崩壊しつつあるスターダストのアイドルたちは先行き不透明か。
(絵/藤本康生)
事務所タイプ【4】
「やる気のなさが隠しきれない」
アイドルブームで何となく手を出した事務所
プラチナム・パスポートが自由な運営を始めたPASSPO☆は売り上げも順調に伸ばしているが、本腰を入れ切れないスウィートパワー、レプロは失敗か。
(絵/藤本康生)
事務所タイプ【5】
「ブームに乗って安易に参戦」
アイドルで一発当てたい一般企業
KGY40Jr.を運営するポスティングが本業のビーム・エンターテイメントや、AKBN 0を運営するブライダルのカンドウなど、アイドル頼みになりすぎなければ、そこそこ悪くもない?
AKB48(以下、AKB)、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)など、紅白出場を果たした人気グループから、アイドリング!!!やさくら学院などの中堅どころ、年季の入ったハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)勢、さらには、X21やさんみゅ~など、オスカー、サンミュージックといった、大手芸能事務所が仕掛けるアイドルも近年続々デビュー。女性アイドルの人気は、ますます加熱しているように見える。しかし、今年に入ってから、アイドル界隈の関係者たちは口をそろえて、「バブルはピークを過ぎた」と話すようになった。AKBのシングルCDの売り上げも、昨年5月に発売された「真夏のSounds good!」の182万枚をピークに、8月に発売された「ギンガムチェック」(131万枚)以降、4作連続で低下。それ以外のグループに至っては、そもそもAKBほどのバブルが起きているわけではない。
たとえば、ももクロのシングルのセールストップは、布袋寅泰作曲で昨年11月に発売された「サラバ、愛しき悲しみたちよ」。同曲はオリコンで自身過去最高位の2位を記録し、紅白でも披露された楽曲だ。しかし、その売り上げは7万枚と、AKBの10分の1にも満たなかった。
もちろん、CDが売れないこのご時世において、7万枚を売ることは容易ではないが、その人気が下火になるにつれて、ブームに乗じた芸能事務所の明暗ははっきりしつつある。各事務所のアイドルビジネスについて、その最新事情を見ていこう。
早く卒業させたい儲からないAKB
まずは、独走状態が続くAKBグループ。中でもNMB48(以下、NMB)の運営を行うKYORAKU吉本・ホールディングスは、その恩恵を今、最も受けているという。
「吉本はとにかく本業のお笑い部門が不調で、売り上げがNMB頼み状態になっているんです。2011年度に39億円の赤字が計上されてからは、ギャラの未払い、販管費の大幅カットなど、同社の経営状態を不審がる声は周囲で上がり続けています。コンテンツ部門でもあるよしもとアール・アンド・シーに至っては、NMBの売り上げだけで会社がもっているのでは、なんて社内でも言われてますよ(苦笑)」(元NMB関係者)
NMBの場合、メンバー全員が吉本に所属し、事務所主導で運営ができることもビジネスの成功につながっているのだという。一方で、AKBの主要メンバーはそれぞれが別々の芸能事務所に所属しつつも、運営の実権はAKSが握っている。卒業した前田敦子をはじめ、大島優子、指原莉乃らを擁する太田プロ、渡辺麻友、高橋みなみ、小嶋陽菜らを擁するプロダクション尾木、板野友美らが所属するホリプロ、柏木由紀らのワタナベエンターテインメントなどが、参画している主たる事務所だ。しかし、グループの人気にあやかってソロ仕事で儲けようと踏んだものの、これらの事務所はさほどブームの恩恵を受けたわけではないようだ。
「AKBメンバーの仕事については、いちいち秋元康さんサイドにお伺いを立てねばならず、事務所の思うように、自由に仕事をさせることはできないんですよ。CMや写真集など、個人仕事でなければほとんど利益にならないので、正直しんどいですね」(某芸能事務所マネジャー・A氏)
さらに、別の芸能事務所の関係者B氏は、「早く卒業させたいと思っている事務所は増えているはず」と続ける。
「特に、年末から立て続けに所属メンバーの卒業が発表されたホリプロは、自由に仕事をさせてもらえない状況に業を煮やしてか、12年の春頃から、NHKをはじめとしたテレビ番組に、所属するメンバーを秋元さんの許可なしにねじ込むなど、暴挙に出始めていました。それにホリプロは、稼ぎ頭の板野友美を早くソロで売っていきたい。卒業後すぐに本人も望んでいるダンスミュージック路線にシフトできるよう、準備を着々と進めているようですよ。卒業すれば、その後は各事務所が自由に運営できますからね。太田プロも、前田敦子のように早く大島優子がグループを卒業することを望んでいると聞きますし、尾木プロだって、渡辺麻友、高橋みなみをソロデビューさせて、次の準備を始めてるんじゃないでしょうか」(同)
そんな中、戦略不透明なまま、AKBからの離脱を図り始めた事務所もあるという。柏木由紀らが所属するナベプロだ。
「ナベプロは、事務所内が渡辺プロとワタナベエンターテインメントに分裂して以来、力が分散されてしまっているんです。その上、AKBのアイドルが所属している後者の社長・渡辺ミキ氏は、秋元さんサイドとの関係がよくない。一刻も早く手を引きたがっていると噂されていますよ。そうそう、1月クールで放送されていた深夜ドラマ『ミエリーノ柏木』(テレビ東京)って、実はもともと高橋みなみのソロデビューに合わせて企画されていたものだったんですが、渡辺社長の力で柏木に変更されたという噂もあります。同氏のお気に入りでもある柏木をガンガンソロで売って、早々にAKBから切り離すつもりなんでしょう」(別の芸能事務所関係者C氏)
しかし、個人でも確実に仕事が入ってくる状態でなければ、事務所にとっても「卒業」はおいしいわけではない。SDN48の事実上の解散後、メンバーだった佐藤由加理は所属事務所アーティストハウス・ピラミッドから早々に契約を切られ、小原春香もドレスコードとの契約が終了。さらに、今年3月31日には、まだAKBに在籍中であるにもかかわらず、メンバーの佐藤亜美菜、片山陽加が所属事務所アトリエ・ダンカンから“契約終了”を言い渡された。ついに卒業を待たずに手を引くケースも出てきたところを見るに、AKBプロジェクトに手を出した事務所の中でも、明暗ははっきりと分かれ始めているようだ。
成功の形はなんでもOK自社育成システムを利用
さて、こうしたAKBの状況を横目に、自社のノウハウを使ってアイドル運営を行う事務所にも注目したい。まず、自社のタレント育成システムを生かし、レッスン生をアイドルとしてデビューさせる事務所だ。モーニング娘。を擁するアップフロントのほか、国民的美少女コンテストの上位者によるグループ・X21をデビューさせたオスカープロモーション、東京女子流やSUPER☆GiRLSらを抱えるエイベックス・マネジメントなどがその代表格だろう。
アップフロント、エイベックス・マネジメントに関しては、いずれアーティストになる人材を育てる“音楽事務所”。しかし、オスカーといえば、上戸彩をはじめ、武井咲、剛力彩芽らを輩出したモデル・女性タレント事務所だ。その育成システムとアイドルとは、一見関係ないようにも思えるが、同社の専務取締役・鈴木誠司氏は「それこそが強み」なのだと言う。
「うちはもともと、女優志望グループとモデル志望グループとで分けて、何百人もの候補生にレッスンを受けさせているんです。その中から、毎年デビューさせる子を決めている。武井だって剛力だって、そこでレッスンを受けながら、デビューのタイミングを待っていました。うちが主催している全日本国民的美少女コンテストでも、最終選考まで残った子たちにはみんなレッスンを受けてもらっているんです。それで、昨年行った第13回は出場者が粒ぞろいだったので、『X21』というアイドルグループを作って、活動をしながらレッスンを受けてもらうことにした。大勢のグループになることで取り上げてもらえる可能性は増えますから、経験を積む中で、いずれ、音楽をやっていくのか、モデルをやるのか、女優になりたいのか、選んでいけばいい。そもそも、こうした独自の育成システムを持っていたからこそ、うちはAKBのメンバーも採らなかったわけです」(同)
つまり、アイドルとはいえ、レッスンを受けさせることに変わりはなく、売れ方はなんでもかまわない、というスタンスだ。「最終的にひとりでも多く残ってくれれば、うれしい」と鈴木氏は続ける。
「オスカーではタレントに対して、常に数億円の初期投資を行っています。レッスン代や交通費などはすべて事務所持ちですからね。さらに、X21に関しては、4月からテレビ朝日で冠番組も持たせているんです。普段のレッスンの中では実際の現場の雰囲気などは教えられませんから、実践の中で学ばせるつもりです」(同)
“スタッフは飼い殺し”独自の運営手法で成功
さらに、オスカーのようにタレント育成の一環としてグループを結成しつつ、人気が拡大したためにアイドル運営を本格化させた事務所もある。Perfumeらが所属するアミューズや、ももクロらが所属するスターダストがその例だろう。特にアミューズの場合、Perfumeはサブカル色の強い演出で人気を拡大していき、十分に成長させたところでアーティスト路線へとうまく切り替えたことで、売り抜けることに成功した。しかし、そのためには、当然ながら途中でファンやスタッフ、露出媒体なども替えていく必要がある。
「Perfumeはもともとサブカル系の媒体に多く起用されてきましたが、現在はそういった媒体は軒並み取材NG。ネットメディアへの規制も厳しく、11年頃から懇意だった音楽サイトの『ナタリー』やタワーレコードが発行するフリーマガジンの『バウンス』などでも取材ができなくなったそうです。そのため現在はほぼ、一般誌と音楽誌にしか露出しなくなっています。例外的なのが『TV Bros.』(東京ニュース通信社)ですが、連載を持っているのにもかかわらず、表紙への登場を打診しても簡単にはOKしてもらえなくなったとか。寂しい話ですが、この見切りの良さが、成功の秘訣なのかもしれません」(サブカル系ライター)
さらにPerfumeは12年、長年を共にしてきた徳間ジャパンを離れ、海外進出に向けて音楽レーベルをユニバーサルJに移籍した。11年末頃には、業界内で「徳間からエイベックスに移籍するらしい」という噂が流れたものの、その際は「メンバーがずっと一緒にやってきた徳間にいたいと主張したため、その話はなくなったらしい」と囁かれていたが、結局、 “ビジネス”としての戦略に踏み切ったということだろう。
一方のももクロもまた、今まさにそうした移行時期に来ており、近しい関係者によれば「スタッフの露骨な入れ替えが目立つようになった」という。特に楽曲担当者は顕著で、初期にはネット出身のヒャダインこと前山田健一氏を起用し、代表曲のひとつ「行くぜっ!怪盗少女」をヒットさせたが、その後は大槻ケンヂ、やくしまるえつこという大物サブカル路線へとシフト。さらに昨年には、布袋寅泰からも楽曲提供を受け、売り上げを順調に伸ばしながらサブカル臭を弱めてメジャー感を増していった。
「ヒャダインさんは気の毒です。彼は『怪盗少女』以降、スターダストの所属タレントとして内部に引き入れられたんですが、ももクロの楽曲については徐々に主要な作曲家の座から外される形になっている。自由が利かなくなった上に作曲もさせてもらえないのでは、飼い殺し状態ですよ」(芸能事務所関係者・D氏)
当の本人も、以前からネットに「最近お呼びがかからない」などと投稿していたが、今年3月にはついに「信じられないようなショッキングな出来事があって、曲を書く気になれない」とツイッターで発言。そのタイミングでももクロ関係者のフォローをすべて外すなどしているため、事務所側となんらかの話し合いが持たれたのではないかとネットでは臆測を呼んでいる。さらに、“ヒットの立役者”として知られる川上アキラマネジャーが実権を握るももクロの運営体制に“聖域”はないようで、最近では長年ステージ演出を担当している佐々木敦規氏も、同じく担当を外されるケースが見られるようになってきた。
しかし一方で、こんな声も聞こえてくる。
「スターダストは各チームがまったく連携しておらず、会社の上層部も、川上氏が何を考えているか把握していない状態。そんな中、アイドルを束ねる芸能三部のボスである藤下リョウジ氏が、ももクロをはじめ、アイドルビジネスに飽きてきているらしく……最近では、私立恵比寿中学やチームしゃちほこなどの後続グループは、もう積極的に売り出さないのではないかと言われています」(スターダストに近しい関係者)
川島海荷を守るため“便乗”事務所の現状
しかし、スターダストやアミューズは、ノウハウなしに見事アイドルビジネスを成功させた例に変わりはない。一方で、現在のアイドルブームに乗ってなんとなくアイドル運営を始めてみたものの、失敗したケースも散見されるのだ。たとえばスウィートパワーに所属するbump.yは、桜庭ななみをはじめとする人気の高いメンバーもいたが、もともと女優志望者を集めたユニットということもあり、楽曲リリースに伴ってライブ活動を行うような今どきのアイドル活動は積極的に行われず、人気もさほど拡大していない。また、プラチナム・パスポート所属のPASSPO☆のように、「レコード会社(ユニバーサルJ)と事務所の関係がうまくいかず、事務所が一時さじを投げていた」(アイドルライター)グループもある。
さらに、川島海荷が所属するレプロエンタテインメントのグループ、9nineについては、「11年頃、解散の話も持ち上がっていた」(芸能事務所関係者・E氏)という。9nineは05年から活動を続けているが、「パフォーマンスガールズユニット」を名乗ってみたり、楽曲の雰囲気をコロコロ変えるなど、路線が安定しないまま現在に至る。E氏が続ける。
「運営側としては、もはや積極的にグループを売り出そうという気はないんですよ。もともとアイドルを得意とする事務所ではないですし、最終的にはメンバーも女優やモデルで成功させたい。それでもグループが解散しないのは、稼ぎ頭である川島海荷がアイドル活動を続けることを望んでいるからです。彼女のやる気を保つために、楽しく活動できる場を作れれば事務所としては十分。9nineがある限り、別の事務所に移籍されることもないですからね」
そしてもうひとつ、アイドルブームに伴って、本業がほかにありながらアイドル運営に手を出す一般企業も次々に登場した。もとは新聞販売店のビーム・エンターテイメントによるKGY40Jr.、ブライダル業のカンドウ所属のNゼロなどがその一例だ。超零細芸能事務所に所属するアイドルなども含め、ライブイベントが主戦場の、いわゆる地下アイドルと呼ばれるグループはおおむねこの分類になる。
しかし、アイドル運営に安易な夢を見て参入すると、とんでもない失敗に至る。ダスキン事業とウォーターサーバー販売のナックが仕掛けたグループ・桜組は、資金繰りが困難となり、昨年2月に解散した。その際、同社の西山由之会長は、ブログで「この3年間で約5億円を費やしてきました。(中略)これらは全て回収困難であります」と、告白している。同氏に取材を申し入れたところ、「そこについてはもう触れられたくない」という返答だったが……。
だが地下アイドル運営が儲からないかといえば、必ずしもそうではないらしい。Nゼロ(元AKBN0)を擁するカンドウの安藤正臣氏は語る。
「うちは、もともと予算ゼロから始めて、余計な先行投資もしないので、損はしてないですね。爆発的に売れたりもしないけれど、リスクなく安全にやるにはそれが一番。CDリリースも赤字になるので、あまり頻繁にやらないです。うちの場合は握手券、トーク券、2ショット写真券、打ち合わせ券、さんぽ券などの販売が主要な活動資金になってますね。あとはライブチケットやメンバーの衣装をヤフオクで売るというのもやりました。集客を伸ばすなら、AKBの握手会の会場近くに行ってビラ配りをするのがいいですよ。この手法はうちが始めたんですが、最近では、多くのアイドルが同じことをやってます。真似しないでほしいですね(笑)」
これは、一見、禁じ手とも思えるコバンザメ手法(失礼!)だが、大手芸能事務所にはできないビジネス展開だろう。AKBが火をつけたアイドルブーム終焉の日が見えてきた昨今。長期的な戦略を考え、AKBの中でも前田敦子の太田プロや板野友美のホリプロのように、事務所が早めの方向転換を行ったケースや、Perfumeのアミューズのように、次のステージを見据えながら活動してきたケースは、安泰と言えるだろう。しかし、短絡的にブームに乗ろうとした事務所は、スウィートパワーやレプロのような大手事務所ですら、徐々に振るいにかけられている。1年後、いや、半年後にこの中のいくつの事務所が笑えるのか、結果が出る日は近いだろう。
(文/サイゾー取材班)