──アメリカのショービジネスは、日本と規模も違えば、そのマヌケ度のスケールもデカい! “聖と性の伝道師”ことR&Bのトップシンガー、R・ケリー自伝の必笑エピソードから、オカルト宗教団体による、あの有名俳優の嫁探しプロジェクトの実態まで徹底暴露! アメリカショービジネス界の舞台裏がわかる書籍の世界をご一読あれ!
アメリカショービズ界は、今どうなっている? のんきに過ごしていると、つい疎くなってしまう海外の芸能事情を、手練れに「本」を挙げてもらいつつ、現状を探ってみよう。
“聖と性の伝道師”は生理を知らなかった!
丸屋九兵衛氏の著書『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』。
まずトップバッターはブラック・ミュージック専門ウェブサイト「bmr」(http://bmr.jp)の編集長・丸屋九兵衛氏。
「音楽界のスターの実像に迫る本として、今一番オススメしたいのが『R・ケリー自伝 SOULACOASTER』【1】です。帯文に私が言葉を寄せている通り、実は彼って『黒人音楽史上、最も絶頂期が長い男』なんですよ。異論もあるかもしれませんが、例えばプリンスの絶頂期は『I Wanna Be Your Lover』を発表した79年から90年代前半あたりまでの12~13年。ところが、R・ケリーは92年のデビュー以来、私生活は別とするなら(笑)、一度も失敗していない。しかも本の中で告白している通り、ディスレクシア(難読症)なんです。だから子どもの頃、兄貴のバンドにボーカリストとして入るためにレコードを何度も聴いてアース・ウインド&ファイアー『SERPENTINE FIRE ~太陽の戦士~』の詞を覚えた。そんなキャリアのスタートをしているのに、20年以上第一線で活躍している。ある意味、盲目のスティーヴィー・ワンダーと似たタイプなんですよ。
あと本書に載っている一番心を打たれる逸話が、彼がマイケル・ジャクソンと会った時の話。感激のあまり『ちょっと失礼』って言ってトイレに行って床で泣き崩れたそうなんです。そしてトイレから戻ってくると、『手負いの獣のような絶叫』が聞こえた。『なんだろう?』と思ったら、マイケルが喉のウォーミングアップをしていた、と。本人は真剣に言ってるつもりなんでしょうけど、読んでいるこっちにしてみると、やっぱり面白い(笑)。日本でもアメリカでも、R・ケリーは『セックスのことばかり歌っている、あまり知的でないR&Bの人』っていうイメージばかりが先行していますが、神に会って泣き崩れることしかり、『手負いの獣のような絶叫』というパンチラインを繰り出すことしかり、実はキュートな人なんですよね。まあ、17歳の時、非童貞だったにもかかわらず、生理の存在を知らなくて、セックスの最中、自分のナニが真っ赤に染まったことに慌てて実の姉に相談したという、明らかにおかしい性体験も書かれてるんですけど(笑)。
『ヴィンス・ニール自伝』【2】と『星に向かって─ジョージ・タケイ自叙伝』【3】は、アメリカショービジネス界のエスニシティの問題を考える上で読んでおきたい2冊です。ヴィンス・ニールがボーカリストを務めるモトリー・クルーは80年代のLAメタルバンド。LAメタルといえば、金髪碧眼のホワイトアメリカンというイメージなんですが、実のところヴィンス・ニールは4分の1、ネイティブアメリカンの血が入っていて、しかももう4分の1はメキシカン。そして『スタートレック』シリーズのヒカル・スールー役で知られるジョージ・タケイは名前の通り日系アメリカ人です。
何年か前にT.I.という黒人ラッパーが『移民は自分の国に帰れ』と発言したことからもわかるように、今のアメリカでは黒人はマイノリティのトップランナーではない。マジョリティの最後尾集団になった気がします。その一方で、今一番勢いがあるマイノリティは、ヒスパニック系とアジア系。ヴィンス・ニールやジョージ・タケイの半生を知ることは今のアメリカの人種問題を知る手助けになるんじゃないでしょうか。『星に向かって─ジョージ・タケイ自叙伝』はタケイのカミングアウト前なので、ゲイであることに触れてないのは残念ですが(笑)。男性のパートナーと結婚するのは08年です。
そして最後はちょっと手前味噌なんですけど(笑)、拙著『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』【4】。主にブラック・ミュージック界のDISネタや、ビヨンセの処女を奪ったのは誰だ!? といったゴシップ、ハゲネタ、ゲイネタなんかを集めた一冊です。今回紹介したR・ケリー、モトリー・クルーも取り上げていますし、ジョージ・タケイ以外の別の『スタートレック』俳優のゲイ話もしっかり書いています!(笑)」