サイバー犯罪対策の遅れは日本の危機? 拡大する政治的空間の変遷と今後

──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

第32回テーマ「覇者なきサイバー空間へのテロ」

[今月の副読本]
『情報エネルギー化社会』
ポール・ヴィリリオ/新評論(02年)/2520円
テクノロジーの進化によって、“空間”はどのように変革していくのか──? 情報技術の発展により、これまでにないスピードで変わる“空間”の実相を、最先端の思想家が速度の観点から論ずる一冊。


 4人が誤認逮捕されたパソコン遠隔操作事件では、今年2月になってようやく「真犯人」が逮捕されました。2012年6月にはじめて横浜市のサイトに小学校襲撃予告が書き込まれてから、約半年後です。

 この事件では、日本の警察がいかにサイバー空間での犯罪捜査に非力なのか、ということが露呈してしまいました。4人も誤認逮捕されたということ自体が、その非力さをよくあらわしています。誤認逮捕が生じたのは、ネットの住所にあたる「IPアドレス」を根拠にして容疑者を特定するという、少しでもインターネットに詳しい人からみればあまりに素朴だと言わざるをえない捜査方法への過信があったからでした。また、「真犯人」はたしかに逮捕されたとはいえ、その手がかりとなったのが江ノ島の防犯カメラなどに残されたとされる容疑者の痕跡だというのも、いかに警察のサイバー捜査が行き詰まっていたのかを示しています。(ただし、今回の「真犯人」逮捕については「誤認逮捕ではないか」という声もあることは注意しておくべきでしょう。「真犯人」とされた容疑者の弁護人は冤罪を主張しています。この弁護人は、足利事件で再審無罪判決を勝ち取った佐藤博史弁護士です。逮捕の決定的な証拠だと報じられた、猫に首輪をつける容疑者の映像も、弁護人が警察に本当にそうした映像があるのかを問いただしたところ、立ち消えになってしまったようですので、「真犯人」逮捕についても慎重にみていく必要はありそうです)。

 サイバー空間における捜査当局の非力さは、しかし、今回のような事件で誤認逮捕がでてしまいかねないという問題にとどまらない深刻さをもっています。というのも、その非力さは日本のサイバーセキュリティの脆弱さそのものを象徴しているからです。総務省管轄の独立行政法人・情報通信研究機構の調査によれば、12年に日本の政府機関や企業などを対象としたサイバー攻撃は約78億件もありました。もちろんそれらの攻撃のすべてが目的を達成しているわけではないでしょう。しかし、数が増加し手口も巧妙化するなかで、日本ではその対応が後手に回ってしまっていることは否めません。

今すぐ会員登録はこちらから

人気記事ランキング

2024.11.22 UP DATE

無料記事

もっと読む