出版社の自転車操業で回収本が続出!? 回収本騒動の実情を紐解く

──今年1月に話題となったAKB48河西智美の“手ブラ”が掲載された「ヤングマガジン」や、12年に発行元の役員が逮捕された「DVDコピー本」など、回収騒ぎを巻き起こした書籍は数知れない。こうした“回収本”が生まれる舞台裏とともに、背景にある出版業界の構造的不備を追う―。

(絵/小笠原徹)

■各方面からのクレーム
“言葉狩り”か“表現の自由”か
出版と差別の問題は根が深く、幾度となく市民団体などからのクレームや回収劇を繰り返している。国民的マンガ誌「週刊少年ジャンプ」で連載していた『燃える!お兄さん』では、1990年の掲載号に学校用務員を差別的に扱う内容のマンガを掲載して、回収騒ぎに。動物保護団体を紹介した記事中の“屠殺場”という表現などが問題視された雑誌「クロワッサン」(00年10月10日号)も回収騒動を起こしている。

■お粗末な誤記・ 不備
犯人は編集者!?
機械翻訳疑惑が持ち上がった『アインシュタイン その生涯と宇宙 下』(武田ランダムハウスジャパン)は、訳者と思しき人物がAmazonレビューに“降臨”。担当していないページの翻訳について、「Max Born」という人名を「最大限」と訳すなどのお粗末さに怒りをぶつけたことでも注目を集めた。今年2月にも、JR東海グループのウェッジ社が発行する「WEDGE」3月号が、“記事内の数値や内容の誤り”を理由に回収。同誌は約13万部発行されており、その損失について、出版関係者は「回収や刷りなおしで、1000万円は下らないだろう」と言う。いずれにせよ、編集者の力量が疑われる事例だ。

■法律違反の疑い
「盗人猛々しい」とはこのこと!?
本文にもある通り、AKB48・河西智美の“手ブラ写真集”を告知した「ヤングマガジン」が、児童ポルノ法違反に当たる可能性があるとして回収。関係者が事情聴取された。また、オリエンタルランドの社内文集やネットの書き込みなどからの盗用だとされ、著作権侵害の可能性が指摘された『最後のパレード ディズニーランドで本当にあった心温まる話』(サンクチュアリ・パブリッシング)はベストセラーにもかかわらず回収されるハメになった。認識が甘くてうっかり! じゃ済まされないケースだけに、社会的に大きな波紋を広げた事例だ。

仕事放棄などで不評を買っていた河西智美。逆風は増すばかり。(c)AKS 写真左下は児童ポルノ法違反と騒がれた問題の画像。(加工は編集部によるもの)

 今年1月、マンガ誌「ヤングマガジン」(7号)【1】内で、AKB48・河西智美の”手ブラ写真集”こと『とものこと、好き?』(共に講談社)の告知として、河西の胸を男児の手で隠した同写真集の表紙を掲載したところ、この表紙が「児童買春・ポルノ禁止法違反ではないか?」と、ネットを中心に世間を騒がせた。発売元の講談社は、即座に発売前の「ヤンマガ」の販売延期を発表するも、同誌の一部はすでに市場に出回っており、講談社は回収を呼び掛けることとなった。その後、警視庁が講談社を事情聴取するまでに至り、当該の写真集はいったん発売中止となった。この「ヤンマガ」回収騒動について、ある芸能関係者は「『男児が河西の胸を隠す』という構成は、AKB48の総合プロデューサーである秋元康氏が決めたものだったようです。編集部内でも『問題があるのでは?』という意見もあったが、秋元氏の意向ということで、最終的に使用することとなった」と打ち明ける。人気絶頂のAKB48を率いる秋元氏の“ゴリ押し”におもねった代償として、講談社は“雑誌回収”という大打撃を食らうハメになったのだ。

「ヤンマガ」の例に限らず、一度は出版物として世に出ながらも、内容の違法性や差別表現、盛大な誤記など、さまざまな原因で回収されるに至った書籍や雑誌は少なくない。近年では、4人の逮捕者(その後、不起訴)を出した三才ブックス発行のムック本『ものすごくわかりやすいDVDコピー2012』【2】にまつわる回収劇も有名だ。同社は、DVDのコピー防止機能を無効化するソフトウェアを付録として同誌につけて販売したことで、不正競争防止法違反に問われ、12年7月に同社役員ら4人の逮捕へとつながった。三才ブックス関係者はこう話す。

「DVDのコピー解除ソフトの販売や譲渡が違法になったのは、法律が改正された2011年12月1日。同誌の発売日は12月13日でしたが、違法となる前から制作を進めていたわけで、今さら止めるわけにもいかなかったのか、同誌は発売されました。法律改正前から、日本映像ソフト協会といった業界団体から違法化についての通知が来ており、社内でも話題になっていたのにもかかわらずです。発売後、弁護士に相談したところ、『市場にある分は問題ない』という認識だったため回収も行わず、自社サイトの通販でも売り続けていたのが、警察に目を付けられたんでしょう。逮捕要件としては、ウェブ販売分の2冊が挙げられたのですが、その2冊はもしかしたら警察の人が買ったのかも(苦笑)。どちらにしても、社内の認識が甘かったとしか言いようがないです……」

 この関係者によると、逮捕された4人以外にも、複数人の社員が取り調べを受けた。加えて、同誌は編集プロダクションに外注して制作していたため、編プロ側のパソコンも押収され、印刷会社にも事情聴取が入ったという。結局、“認識の甘さ”によって関係先へ多大な迷惑を掛けたことで、三才ブックスは警察や関係先、世間に対する誠意を見せるため、同誌の回収を決定した。しかしこの騒動は、同社が発行している「ラジオライフ」といった雑誌への影響が大きかったと、関係者は言う。「広告をお願いしていたPR会社からはすぐに契約を切られましたし、事件を受けてうちへの広告出稿を取りやめたクライアントが多数いたと聞いています。さらに、印刷会社からは“DVDコピー”などを扱う書籍に関しては、受注を差し控えたいという話もあったようです」(関係者)。回収騒動は、書籍が売れなくなるという即時的な不利益だけではなく、会社の信頼やほかの発行物にも悪影響を及ぼすこととなるのだ。

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