いまどき未導入は我が日本だけ?
国によってタイプは違うが、すべての国民に番号を割り振って横断的な行政サービスを利用できる制度は、ほとんどの先進国で導入されている。これに対して日本は、年金、保険、パスポート、免許証などの番号が別々に割り振られており、利便性の面からもコストの面からも無駄ではないかとかねてより批判の対象となっていた。
『マイナンバーがやってくる』(日経BP社)
さる3月1日に、「共通番号制度」関連法案、いわゆる「マイナンバー法案」が閣議決定された。民主党政権末期に棚上げされていたものが、あらためてスタートを切った形だ。このマイナンバー法案に関連して、IT業界の一部や霞が関において、まことしやかにささやかれている噂がある。「あのヤフーが、マイナンバー利権を狙っている」というのだ。
国のIT政策に詳しいジャーナリストは、「2012年の7月にヤフーが、マイクロソフトからマイナンバーのキーマンをヘッドハンティングしたのが噂の発端」だと語る。
「そのキーマンとは、楠正憲氏。マイクロソフトで彼は、ITやネットに関する規制緩和を求めたり新しい法律が自社に不利にならないように活動するロビイストとして働いていました。11年からは、内閣が設置したIT戦略本部においてマイナンバー制の検討を行う番号制度推進管理補佐官も務めており、まだ35歳ながら、民間人としては最もこの業界の中心にいる人物です」(ジャーナリスト)
楠氏は、「ネット上の表現の自由を侵害する」などとして08年に話題になった「青少年ネット規制法案」においてIT業界を挙げての反対活動を取りまとめるなど業界内でも顔が広く、国内でも有数のIT系ロビイスト。ヤフーに移籍直後の12年8月には政府CIO補佐官にも就任した彼のヤフーへの移籍はさまざまな憶測を呼んだが、どうやらヤフーがマイナンバー利権に食い込むため、楠氏のロビイングの手腕とマイナンバー法案への影響力を見込んでのことだというのだ。
ヤフーは日本最大のネット企業だが、現状ではコンシューマ向けネットサービスがビジネスのメイン。そのヤフーが国の制度に関わる利権を狙うというのは、いったいどういうことなのだろうか?
『マイナンバー』
すべての国民に番号を割り振り、納税情報や社会保障情報を一元管理しようという制度のこと。個人のプライバシーなどの問題から、導入に対して反対する意見も根強い。
「実はヤフーが狙ってるのは、マイナンバー制そのものではなく、その後に控えている国民ID制度【1】と、それによるネット上の個人認証基盤に食い込むことです」と、ある政府関係者は語る。
そもそもマイナンバーとは、国民一人ひとりに固有の番号を振り、それによって税金や社会保障など、お金にかかわる行政手続きの透明性と効率化を高めるための制度。つまり「消えた年金問題」などの是正を目指したもので、あくまでも行政と、そこに税や社会保障に関して書類を提出する必要がある事業者だけが利用するためのもの。だが、マイナンバーと一緒に検討が進められてきた「国民ID」のほうは、民間利用までも想定している。
「国民IDは、マイナンバーとは別に国民一人ひとりに番号を発行し、それによって民間のサービスを利用する際に身分証明書として利用できるようにするもの。国民IDが実現したら、かなり大規模な公共事業になるはずで、ヤフーはその受注を狙っているらしい」(政府関係者)
国民IDとヤフーIDが一致する日もすぐそこ!?
ヤフーと公共事業、一見すると両者は縁遠いようにも思われる。しかし、ヤフーと官僚側の双方に、一致する思惑があるのだ。