──では、トクホ業界全体で実際に商品を開発しているメーカー側にとって、トクホビジネスにはどんな旨味があるのだろうか──。開発に携わる社員たちの声をもとに、日本健康・栄養食品協会(以下、日健栄協)の内実と、その”苦しい”懐事情について検証した。
『特定保健用食品データブック』(南山堂)
にわかに活気づくトクホ市場。そう聞くと、飲料や食品を手がけるメーカー各社がこのブームに乗っかって、競い合うように「トクホ」を開発しているようなイメージを抱くかもしれないが、現実はちょっと異なる。乳製品を扱う食品メーカーの営業マンが言う。
「うちもトクホは出していますし、もちろん開発もしていますが、そんなに力を入れている分野でもない。というのも、外から思われているほどおいしくないんですよ。トクホの許可を取るためには臨床試験もやらなくてはいけないので1~2年はかかるし、費用も数億円単位でかかります。なのに、苦労の割には売れないという商品のほうが多いんです。メッツコーラが売れたのは、トクホと炭酸飲料という意外な組み合わせがウケたから。加えて、あしたのジョーを広告に利用して、脂っこい食事をしてもトクホコーラを飲めば大丈夫というお手軽なイメージをつくったからでしょう。キリンさんの”マーケティング”の勝利です」
概論でも触れた市場の減少を観るに、トクホは思ったよりも売れていない。トクホビジネスにかかわる者たちの反応の多くは、先の営業マンのように冷ややかだ。その理由を、某健康食品メーカーの社員が明かす。
「トクホコーラも黒烏龍茶も、カタカナの”トクホ”という言葉と国が効果を認めたというお墨付きを使ったイメージ操作であって、本来の”特定保健用食品としてのトクホ”の目的からは、大きくかけ離れています。本気でトクホビジネスをやってきた者たちからすると、そりゃシラけますよ」
この言葉の真意は、トクホの成り立ちにある。前述の通り、厚生労働省が管轄となって、大手食品メーカーと共に「機能性食品」を制度化しようと動き始めた頃、中央官庁ならではの横やりが入る。問題となったのは「機能」という言葉。薬事法の医薬品の定義に「身体の構造、機能に影響を及ぼす」という文言があったため、医薬品の担当部局が「機能性食品」の名称とコンセプトに猛反発したのだ。
「そこで妥協の産物としてひねり出したのが、”特定保健用食品”という意味不明な言葉です。こういう成り立ちなので、今も、どっちとも取れる曖昧な表現しか使えない。初期のトクホの成分は乳酸菌が多かったのですが、許可された表示は”おなかの調子を整える”。これだと便秘にいいのか、下痢にいいのかわからないですよね(笑)」(前出・健康食品メーカー社員)
結果、食品の持つ「機能」をうたえることに期待を寄せていたメーカー側からすると完全に期待外れとなったが、厚生省(当時)はトクホを取得するよう、大手の食品メーカーや医薬品メーカーに強く働きかける。当然、温度差が生まれ、商品化は進まず、制度の認知も限定される。そんな中、市場を一気に動かしたのが、99年に発売された花王の食用油「エコナ」だった。
「ジアシルグリセロール(DAG)という成分は確かに、食後に中性脂肪が上昇しにくい。そういう意味では”効果”のある商品を開発したわけですが、それ以上に花王が画期的だったのは、トクホをマス媒体で全面的かつ継続的に打ち出して、さらに関連商品を出すという、いわば”トクホ商法”を大々的にやり始めたことでした。それまで業界には、そんな発想はほとんどなかった」(同)