ピンク映画はもはや風前の灯火?と思いきや、劇場では男たちの炎が!!

──いまやインターネットで簡単にアダルト動画が見放題。そんなご時世ゆえ、ピンク映画業界は衰退の一途をたどっているが、今もどっこい少数ながら劇場は生き残っている。果たしてその客層はどんな人たちなのか? 人目を忍びつつピンク映画館への潜入取材を敢行してみると、そこでは映画よりも刺激的な"乱交"が繰り広げられていた!

『日本映画ポスター集 ピンク映画篇』(ワイズ出版)

 ピンク映画館の閉館が相次いでいる。昨年秋、東京だけでも「新宿国際劇場」「新宿国際名画座」「浅草シネマ」「浅草世界館」の4館が消えた。

「現存するピンク映画館は、全国で60館程度。最盛期には1000館以上あったんですけどね……」

 そう寂しげに語るのは、ピンク映画情報誌「PG」の林田義行編集長(40歳)だ。

 ピンク映画とは、性描写を第一義とする日本独自の映画ジャンル。映画好きな監督や劇団所属の役者も多く参加するため、アダルトビデオのような即物的なエロではなく、作家性やドラマ性の強い作品が生まれがちな分野である。今も昔もその内容は、看護婦、団地妻、未亡人など身近な女性を題材にした作品が中心。3本立てで上映されることが多いため、1本を60分程度にまとめ、最低でも10分に一度は男女の絡みを入れるのがお約束だ。

 ちなみにピンク映画出身監督には、『おくりびと』(08年)で第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎をはじめ、周防正行や黒沢清らがいる。

黄金期には年間にして200本もの作品数

 ピンク映画が産声を上げたのは、約半世紀前の1962年。大画面でエロを堪能できるとあって、当時は多くの男たちが期待と股間を膨らませながら映画館に通い詰めたという。64年に公開された松井康子主演の『妾』は、興行収入数億円を記録。そして70年代から80年代にかけて谷ナオミ主演のSMものが一世を風靡するなどしたが、景気が良かったのはその頃まで。

 80年代後半にアダルトビデオに市場を奪われてからは、業績は悪化の一途をたどっている。往時には20社ほどあったピンク映画の配給会社も続々と消え、今では3社を残すのみとなった。配給会社が減れば、作品数が減るのも自明の理。

「60年代には毎年200本ほどのピンク映画が公開されていたのに、12年は41本だけ。かつては年間15本ほど作っていた監督も多かったですが、そんな彼らも今では年間3~4本しか作れない状況です」(林田編集長)

ピンク映画の伝道師が選ぶ珠玉の名作たち

 ピンク映画は今も昔も「1本につき予算は300万円で撮影期間は3日間」(ピンク映画製作スタッフ)というのが平均的。年に3~4本しか撮れないとなると、収入が足りず、時間も余る。だから多くのピンク映画監督は現在、ほかの映像系の仕事を掛け持ちでこなして生活を維持。出演者も同様で、この道15年のベテラン女優でさえ、ほかのアルバイトと兼業しないと食べていけない状況だとか。

 しかし、そうした苦しい状況下にあっても、名作は生まれているという。毎年すべてのピンク映画を鑑賞し、「PG」誌上で順位を発表している林田編集長に、近年の傑作を数本、挙げてもらった。

「映画愛あふれる作品でいうと、録音技師を主役にしてピンク映画の裏側を見せてくれる『熟妻と愛人 絶妙すけべ舌』【1】や、老いた映画監督を主役にした『超いんらん やればやるほどいい気持ち』【2】が、エロいだけじゃなく感動もできるのでオススメです。一風変わったところだと、ピンク映画にスプラッタ要素を取り入れた意欲作『色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…』【3】や、痴漢をきっかけにダメな男女が自信を取り戻す『痴漢電車 びんかん指先案内人』【4】が面白い。そして最後にもう1本挙げたいのは、今は亡き林由美香主演の『熟女・発情 タマしゃぶり』【5】。人を愛する切々とした気持ちを、林が見事に演じ切った傑作ですよ」

 これらはいずれも旧作だが、タイトルを変えるなどして劇場で再上映される可能性もあるという。そうやって旧作をリサイクルすることも、ピンク映画では珍しくないのだ。

 ところで、ピンク映画の女優は、若手ではAV女優もいるが、年配の女優は劇団などの舞台仕事を兼任する実力派が多いという。林田編集長オススメの女優は誰なのか?

「【5】でも挙げましたが、05年、34才の若さで急逝した林由美香はホント、最高の女優でした。『ミスピーチ 巨乳は桃の甘み』【6】で、軽やかにスクリーンに弾ける林由美香のキュートな姿は、これが遺作であるという悲しみすら忘れさせてくれます。次は、アイドル的な可愛さで観客の人気を集め続ける里見瑤子。『癒しの遊女濡れ舌の蜜』【7】は、大人の女優へと成長した彼女の色っぽさにドキリとさせられます。『うずく人妻たち 連続不倫』【8】という作品は、でピンク映画出演100本に到達した人気熟女女優の佐々木麻由子が出演。これも見逃せません。また、AV女優がピンク映画の主演を務めた作品でいえば、近年を代表するAVアイドルのひとり、吉沢明歩の『悩殺若女将 色っぽい腰つき』【9】がイチオシです。70~80年代はSMを題材にした作品がピンク映画の看板でしたが、近年珍しくなったそのジャンルで、緊縛や数々のハードなプレイに体当たりで挑んだ平沢里菜子の『奴隷』【10】も素晴らしい出来映えですね。最後に挙げるとすれば、80年代のAV全盛期に人気女優のひとりとして活躍し、その後も音楽活動などマルチな才能を見せながら、昨秋急逝した冴島奈緒。そんな彼女の最後の映画出演となった『アラフォー離婚妻 くわえて失神』【11】は彼女自身のポジティブな生きざまが投影されていたようでもあります」

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