『ヤマト』も『まど☆マギ』もオタクの内輪受け!? 総集編アニメ映画急増の理由

──2012年の映画界を席巻したアニメ映画。映画不況にあって、アニメ映画は公開・製作本数が増加するなど、気を吐いている。しかし、中には客入りが見込めるのか疑問符のつくような作品もあり……。アニメ映画急増の内幕とは?

オリジナルから新作エピソード映画、総集編映画と、アニメ映画は花盛りだ。現在、数多くのアニメ映画が劇場で公開されている。

 2012年の国内映画業界は、「アニメ映画が猛威を振るった一年」だったといえる。オリコンが昨年末に発表した12年の映画興行ランキングを見ると、邦画の歴代初動興収5位を記録したヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』【1】や、興行収入40億円を突破した細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』【2】など、上位10作品のうち4作品がアニメ映画だ。また、13年の正月映画として公開された『ONE PIECE FILM Z』【3】は、公開1カ月で興行収入60億円を突破し、東映史上最大のヒット映画となった。こうしたアニメ映画の隆盛の背景として、日本国内における劇場公開本数の増加がある。興行収入、入場者数共に減少傾向で、映画業界全体が下火なのにもかかわらず、アニメ映画の製作本数は09年は50本から、10年は54本、11年57本、12年には64本と、着実に増加している。

 これらの劇場用アニメ映画を大別すると、3つのパターンがある。最初から劇場公開用に製作される“オリジナル映画”、テレビ作品の続編・特別編として製作される“新作エピソード映画”、そして、テレビアニメを新規カットなどを交えつつ再編集、再構築した“総集編映画”だ。近年の例を見ると、先述の『おおかみこどもの雨と雪』のほか、『人狼 JIN-ROH』で高い評価を得た沖浦啓之監督の『ももへの手紙』などがオリジナル映画だ。次に新作エピソード映画では、『ONE PIECE』や『ドラえもん』『ポケットモンスター』シリーズなどの定番ものに加え、女子高生の青春を描く『映画けいおん!』【4】といったアニメオタク向けの作品も人気を博している。そして、総集編映画としては、テレビ放送時から話題となったダークな魔法少女もの『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』【5】や、腐女子にも人気のヒーローもの『劇場版TIGER & BUNNY -The Beginning-』【6】などが公開された。

 特に近年新しい動きとして目立つのは、アニメオタク向け作品の総集編映画の増加である。総集編映画に目を向けると、10年は0本、11年はわずか1本だったが、12年はイベント上映作品も含めると8本公開されるなど、漸増している。テレビ版も人気を博した『魔法少女まどか☆マギカ』や『TIGER&BUNNY』ならまだしも、現在公開中の『スタードライバーTHE MOVIE』【7】のように、地上波放映時にヒットしたとは言えない作品までもが製作されている。なぜ、今アニメの総集編映画が増えているのか? その背景をひもといていこう。

 京都精華大学マンガ学部准教授でアニメ史を研究している津堅信之氏は、「昔からアニメ映画の主流はテレビ放送が先行した作品であり、日本のアニメ映画はテレビ版の強い影響下にある」と指摘する。歴史を遡れば、戦前より製作されていた日本のアニメ映画だが、終戦後、東映動画(現・東映アニメーション)が『白蛇伝』など、子供向けアニメ映画を続々と製作。それらが「東映まんがまつり」などのラインナップに組み込まれ、冬休みなどの定番映画として普及していく。だが、東映動画としては、年一回のオリジナル映画のみではアニメ映画を商業的に成立させることは難しかった。

「そこで、テレビアニメの再編集版を劇場用アニメとして上映することが、窮余の策として取られました」(津堅氏)

 その元祖が、63年に『わんわん忠臣蔵』と併映されたテレビアニメ『狼少年ケン』第2・3話だ。『劇場アニメ70年史』(徳間書店)によれば、この興行は予想以上のヒットを記録し、以降、劇場長編とテレビ作品の組み合わせというスタイルが、後の「東映まんがまつり」の原型になったという。翌64年には、テレビアニメのエピソードを再編集した映画『鉄腕アトム 宇宙の勇者』も上映された。そして、「テレビアニメから劇場映画へ」という流れを決定づける作品が公開される。

「こうした実績もあり、77年、事実上テレビ放映は打ち切りとなった『宇宙戦艦ヤマト』【8】の総集編が、ファンの声にこたえる形で劇場公開されます。翌年には続編であるオリジナル作品『さらば宇宙戦艦ヤマト愛の戦士たち』が、国産アニメ映画初の配給収入2ケタの21億円を達成。81年公開の劇場版『機動戦士ガンダム』3部作では、テレビ版の総集編という形をとりつつ新規作画を加えるなど、マニア向けの仕掛けが組み込まれるようになりました。この経緯を見てもわかる通り、個人で楽しむテレビアニメと、ファンが集まることでマニアックなネタでも盛り上がれる劇場版という役割分担ができたと考えられます」(同)

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