精神科医・岩波明が注目する 閉鎖病棟独特の”閉塞感”をリアルに描いた映画

岩波明(いわなみ・あきら)
1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。都立松沢病院をはじめ、多くの精神科医療機関で診療に当たり、現在、昭和大学医学部精神医学教室教授。多数の著作を持ち、2月には『精神科医が読み解く名作の中の病』(新潮社)が発売される。

 病気や医療現場の実際をよく知らずに表面的に扱っている作品はインパクトを感じられません。その点『クワイエットルームにようこそ』【9】は、精神病院の内部がかなり克明に描かれており、精神医療の実態に迫った作品といえるでしょう。28歳のフリーライター明日香が睡眠薬のOD(オーバードーズ)で内科に救急搬送され、胃洗浄後、希死念慮(自殺願望)があると見なされ、精神病院に転院させられます。目が覚めたところは「クワイエットルーム」と患者が呼ぶ保護室。そこから女子閉鎖病棟で過ごす14日間を描くというストーリーです。

 病棟には、過食嘔吐を繰り返す拒食症、統合失調症などさまざまな患者がいるのですが、その様子が実にリアル。統合失調症患者がライターで髪に火をつけてチリチリになってしまうシーンがありますが、現実にも起こることです。精神科の閉鎖病棟は非常に不安定な患者さんのための施設ですから、病棟の出入り口が施錠され、外部からは隔離された別世界。刑務所のようだといわれれば、一面においては確かにそうですね。暴力シーンも出てきますが、男性患者の病棟だとカツアゲありイジメあり、殺人未遂も起こったりする。特に民間の精神病院などは、わずかな数の医師で多くの入院患者を管理しているところもあり、なかなか目が行き届かないことも多いですから。

 統合失調症の患者さんの入院期間は数年にわたることもありますが、病室は狭く、カーテンの仕切りくらいでプライバシーもあまりないところが多い。その点もリアルでし実態を反映しています。ジャック・ニコルソン主演の名作『カッコーの巣の上で』【10】はアメリカの精神病院が舞台ですが、清潔で非常に広々としている。実際に欧米にはそのような病院が多く、日本の現状とは対照的。日本の精神病院の、特に入院環境の劣悪さは批判の的となってかなりの年月がたちますが、まだまだすべてが改善されているとは言い難い状況です。これは、個々の病院の責任というよりも、こうした状況へと誘導した昔の厚生省にこそ責任があるのですが。

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2024.11.22 UP DATE

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