結局話題は"前田敦子"ばかり(笑) 薄給で闘う宣伝マン"大放言大会"

──映画の興行には欠かせない映画宣伝マン。だが華やかなイメージも今は昔、この映画不況の中で、近年は業界を辞めていく人も続出している。そんな苦境の宣伝マンたちに完全匿名で、仕事しにくい配給会社、扱いづらいタレントからSNS活用の難しさ、さらには話題のお蔵入り作品まで、最近の映画を支える裏事情を語ってもらった。

【座談会参加者】
A…フリーの宣伝マン。業界歴10年。
B…独立系の配給宣伝会社勤務。業界歴6年。
C…配給会社の宣伝部勤務。業界歴5年。
D…宣伝会社勤務。業界歴7年。

都内の名画座でたびたび目撃される映画好きのあっちゃん。夢の女優業、がんばって!

A さて、宣伝業を中心に、昨今の映画業界事情や裏話を語ってほしいということなんだけど、やっぱり最近の宣伝の成功例でいえば、今公開中の『テッド』【下ボックス内参照】だよね。

B 公開は全国134館(253スクリーン)で、中規模な洋画作品という感じなんですが、国内の動員ランキングでも1位になるなど、異例のヒットといえますね。

C 有吉弘行さんが吹き替え声優を務めたり、字幕を町山智浩さんが監修していたりと、話題になる要素はもともとあったけど、ここまでのヒットにつながったのは、やはり宣伝の力ですよ。

A ソーシャルメディアの使い方が見事でしたね。フェイスブックにも、ターゲットを絞ってガンガン広告を出してました。

D メインキャラクターの熊のぬいぐるみ・テッドをいろんなところに出没させ、目撃者にツイッターで「#テッド目撃」なんてハッシュタグをつけてつぶやいてもらったりしてましたね。また、テレビへの露出も公開直前に集中させるなど、宣伝予算の使い方も工夫してるなぁという印象でした。

『テッド』

(c) 2012 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

[配給会社]東宝東和
[宣伝担当]東宝東和、東和プロモーション
[公開スクリーン数]253スクリーン
[興行収入]約4億400万円(公開から3日間)
[動員数]約28万7500人(同)
製作・原案・脚本・監督/セス・マクファーレン 出演/マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニスほか
公開/1月18日より全国ロードショー(R15+)

1985年、テディベアのぬいぐるみ・テッドをかわいがっていたジョン少年が、それに命が宿るように祈ったところ、なんと奇跡が起きて叶えられてしまった。以後2人は親友となるが、27年後の2012年、テッドは見事なオッサンとなり、酒と女とマリファナ漬けの毎日を送っていた。ジョンには結婚を考えている恋人がいるが、彼女はテッドを受け入れない。テッドはついに家を出ることになる──。下品な笑いが満載のR15+作品は、日本でも出足快調の様子。

B 逆に失敗したなと感じたのは、12年に公開された『苦役列車』【1】ですかね。原作が芥川賞受賞作でキャストが森山未來・高良健吾&前田敦子と、かなり期待されていたのに、結果は大ゴケでした。

C そもそも公開日が『ヘルタースケルター』【2】と完全にかぶってたんですよね(共に7月14日公開)。そこを調整するのは配給の最低限の仕事でしょう。レコード会社だって、ライバルとは発売日ズラしたりするじゃないですか。『ヘルタースケルター』に話題性で勝てるわけがなく、公開前から“負のスパイラル”が始まっていたような気がする(笑)。

A 公開日の設定についてもそうだけど、『苦役列車』の場合、宣伝よりも配給のやり方に問題があったんじゃないかな。作品自体は面白かったし、良質な人間ドラマだと思う。でも、本来は単館系のミニシアターで人気が出るような作品だよね。それを73館という中規模クラスの作品として公開してしまった。つまり、規模を見誤ったのが失敗の原因じゃないかと。

D 確かに「規模を広げすぎる→空席が目立つ→コケてる感が広まる→さらに集客にブレーキがかかる」という悪循環がありましたね。ただ、一応擁護めいたことを言っておくと、もともとは別の公開日だったものが、片方がなんらかの理由でズレ込んでカブってしまうことはありますから、必ずしも完全に調整できるわけでもないんですよ。『苦役列車』と『ヘルタースケルター』が、そうであったかはわかりませんが……。

C 『ヘルタースケルター』は、一時は公開が危ぶまれたほど主演の沢尻エリカをめぐるゴシップが多かったですが、結局いい宣伝になったわけで、結果オーライですよね。そもそも最近は、宣伝がしにくい/しやすい作品のタイプって結構はっきりしているけど、あの作品はもともとやりやすかったほうでしょう。むしろ宣伝戦略なんて無に帰したかもしれませんが(笑)。

B ターゲットとなる客層が明確に絞れる作品はやりやすいですね。最近では特にシニア向けの作品が、宣伝もハマってる印象です。例えば、終末医療の現場を舞台にした『終の信託』【3】や、老人介護をテーマにした『桃さんのしあわせ』【4】、人生のエンディングのあり方を考える『みんなで一緒に暮らしたら』【5】など、“老人モノ”はお客さんの入りもいいようですね。

C TOHOシネマズさんがやっている「午前十時の映画祭」なんかも、シニア層にうまくアプローチした企画ですよね。ある調査によれば、日本人の年間映画平均鑑賞本数はわずか1・3本だそうです。映画を盛り上げるためには、宣伝だけではなく、こうした劇場側のアイデアや働きかけも不可欠になっている時代だなと痛感しています。

D 平日の午前なんて、シニア層くらいしか映画館に来られないですもんね。上映ラインナップも『ローマの休日』や『ニュー・シネマ・パラダイス』など往年の名作ばかりで、狙いが非常にわかりやすい。

A わかりやすいというのは重要だね。サスペンスやアクションとか、ヤンキーモノや犯罪モノなんかは、テーマや打ち出すポイントがハッキリしていて宣伝がやりやすい。もっと言うと、媒体さんが記事にしやすい。逆に、さっきの『苦役列車』じゃないけど、「こういう映画です!」と明確に表現しづらい人間ドラマはやりにくい。せっかく良質なドラマなのに、宣伝が弱くて埋もれてしまった作品は山ほどある。

D 同じドラマなら、例えば『告白』(10年)や『悪の教典』【下ボックス内参照】のような、テレビドラマではセンセーショナルすぎて決してできないような作品じゃないと厳しいですね。いくら旬なキャストを集めても、よほど客を呼べる役者じゃない限り、それだけに頼ることもできないですし。

『悪の教典』

[配給会社]東宝
[宣伝担当]東宝宣伝部
[公開スクリーン数]309スクリーン
[興行収入]約2億9900万(公開初週土日2日間)
[動員数]約21万5100人(同)
監督/三池崇史 出演/伊藤英明、染谷将太、二階堂ふみほか
公開/2012年11月10日より全国(R15+)

優秀な教師・蓮実(伊藤)は、実は他人への共感能力を一切持たないサイコパス(反社会性人格障害)だった。ある時些細なミスを犯した彼は、それを隠蔽するためにクラスの生徒全員を惨殺することを決める。小説家・貴志祐介の問題作を三池崇史が映像化し、『海猿』での好青年イメージが強い伊藤英明が初の悪役に挑戦。試写におけるAKB48・大島優子の「この映画が嫌いです」発言も物議を醸した。2013年初夏Blu-ray&DVD発売予定。

B その話でいうと、象徴的なのは前田敦子ですよね。何度も名前が出てかわいそうになってきましたが(苦笑)、『苦役列車』の公開は去年の7月です。AKB48を卒業すると3月に発表して、AKBのメンバーとしては最後の時期。もっと話題になってもいいタイミングですよね。でも、そうはならなかった。彼女が客を呼べる女優ではないことがわかってしまった一件だと思います。

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