東宝の一人勝ちはいつまで続くのか? 映画配給各社の生き残り戦略を探る

──史上最高の年間興収2207億円を記録した2010年から一転、震災の影響で11年は1800億円台にまで市場が冷え込んだ日本の映画界。12年は年末に『ONE PIECE FILM Z』、『レ・ミゼラブル』などが大当たりしたことから、辛うじて1900億円台に乗せた格好となった。本稿では、その中でも特に注目すべき動向のあったメジャー・準メジャー配給会社8社を中心にその趨勢を見ていこう。

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 勝ち組と負け組の二極化が進む中、ゼロ年代の邦画ブーム以降ずっと安定した好調さをキープしているのが東宝だ。12年も『BRAVE HEARTS 海猿』が興収トップとなる73億円を記録したのをはじめ、『テルマエ・ロマエ』『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』が59億円の大ヒット。同社史上2位となる年間興収741億円を稼ぎ出している。

「東宝の強みは、社内の人材が豊富なところ。社員プロデューサーが担当作品をヒットさせるために入念に脚本作りに関わり、編集作業にも細かく意見を言う。これは映画づくりに情熱があり、映画ビジネスのこともわかっていないとできないこと。相手が大監督だと、なかなかできないものですよ」(キネマ旬報映画総合研究所・掛尾良夫エクゼクティブ・ディレクター)

 東宝で今最も注目されているのが1979年生まれの若手プロデューサー・川村元気氏。『告白』『悪人』『モテキ』などの異色作をヒットさせる一方、小説『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)を上梓するなどマルチな才能を発揮している。だが、12年末に東宝の13年新作ラインナップが発表された際、ざわめきが起きた。人気マンガ原作で、川村プロデューサーと中島哲也監督の『告白』コンビによる『進撃の巨人』が14年公開に延期され、監督の名前が消えていたからだ。

「すでにフッテージは作られていたと聞いています。ですが、東宝側が用意した予算では中島監督が思うような作品は完成しないことがわかり、監督は予算アップを要求。東宝が承諾しなかったことから降板劇につながったようです」(映画関係者)

 一か八かのギャンブル的な要素を排し、予算をきっちりコントロールすることで現在の繁栄を築いてきた東宝らしいビジネスライクな対応といえるだろう。注目作は公開延期となったが、今年はスタジオジブリの2大巨頭である宮崎駿・高畑勲監督の『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』が興行を盛り上げることは必至。東宝の盤石体制は当分揺るぎそうにない。

 そして昨年ウハウハだったのが東映。12月公開の『ONE PIECE FILM Z』が60億円を超える大ヒットに。『仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦』をはじめとする特撮もの、アニメ『プリキュア』シリーズなど定番コンテンツを揃え、東宝に続く175億円を稼いでいる。

 では東宝の独り勝ち状態を追撃する体制が東映にあるかというと、首をかしげる関係者が多い。実写のヒット作は役所広司主演の『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(11年末公開)と吉永小百合主演の『北のカナリアたち』の2本が10億円を超えただけ。前田敦子をヒロインに据えた山下敦弘監督の『苦役列車』は1億円に届かないという惨敗を喫した。

「東映の岡田裕介社長は、俳優の経験もあり、撮影所で育った根っからの映画人。映画のことは熟知しているが、逆にわかりすぎていて、企画の可能性の限界も見極めてしまう傾向がある。実写での人気シリーズを生み出せるかどうか。これからの東映は中期的展望が求められるでしょう」(前出・掛尾氏)

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