尼崎事件に見る普遍性と現代性

法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の“意図”──。

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「尼崎事件」
兵庫・高知・香川など6府県で、角田美代子容疑者を主犯とする犯行グループが25年以上にわたり少なくとも3家族以上を監禁して虐待し、うち数名を殺害したとされる事件。これまでに5名の遺体が発見され、さらに数名が行方不明あるいは不審死を遂げている。12年12月、角田容疑者の留置場内での自殺により、全容解明が困難になった。

"ありふれた"大量殺人者?

「日本の犯罪史を塗り替えた」などとして世を騒がせている尼崎連続変死事件。主犯と目されていた角田美代子容疑者の自殺で、さらに事件の真相に注目が集まっています。しかし、犯罪学的に見ると実は、ある意味においては非常にありふれた“ショボい”事件である──などと言ったら、読者諸氏を驚かせてしまうでしょうか。

 もちろん、複数の家庭が崩壊に追い込まれ、10名以上が死亡あるいは行方不明になっているという結果自体は極めて重大です。しかし、歴代の大量殺人事件、例えばしばしば引き合いに出されている1971年の連合赤軍の集団リンチ殺人事件や94年のオウム真理教のリンチ殺人事件などとは、とても同列に語れるようなものでないことがわかります。

 ただ、それなら語るに値しない事件かというと、そうではない。どころか、鬼畜だ悪魔だと騒がれている事件そのものではなく、むしろその“背景”には、大いに注目すべき問題が隠されています。今回は、そのあたりについて解説することにしましょう。

 私が今回の事件を“ショボい”と断ずる理由──それは、犯行の手口に特筆すべき目新しさがあるわけではないことです。例えば、ターゲットに因縁をつけてその家庭に押しかけ、家族を監禁して虐待を加えるというやり方。これは、関西のヤクザなどが常用する脅迫の手口で、非常に古典的です。

 そして、家族同士で殴り合いをさせることによって、肉体・精神の両面でターゲットを追い込み支配するという手口。この、「主犯が直接手を下さず、仲間同士で殴り合いをさせる」というやり方は、旧日本軍をはじめ軍隊においてよく見られる新兵教育を想起させます。軍隊における「いじめ」の典型例として語られることの多いこの種の行為は、実は、新兵を「殺人集団」に育て上げるための第一歩として、実に「合理的」なのです。

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