「健全性調査」に「パチンコ利権」……マル暴刑事たちが目論む危険な"再就職"

――一般に、暴力団対策を担当するのは「組織犯罪対策部」をはじめとする専門部署、通称・マル暴。暴排条例施行後、ヤクザたちへの締め付けが厳しくなり、その動向が鳴りを潜める中、マル暴OB刑事たちの暴力団対策ビジネスが拡まりつつあるという。「詐欺まがい」とも取れる、彼らの“シノギ”の実態に迫った。

(絵/小笠原徹)

「アンタ、あまり無茶な要求するなよ。そろそろ“月間”も近いことだしな……」

 10年ほど前、関東地方のとあるヤクザ組織の組長のもとに、こんな電話がかかってきた。その声の主は、不祥事で某県警を辞めさせられたマル暴──暴力団対策部署の元刑事である。

 元刑事の言う“月間”とは、各地の暴力団追放運動推進センター(暴追センター)が警察と協力して行う、暴追運動の強化月間のことだ。その意味するところを、くだんの組長が説明する。

「おとなしくしていないと、後輩に言ってお前の組を集中的に叩かせるぞ、という脅しだよ。当時、オレは車の事故のことで、保険屋と掛け合ってたんだ。何も強引なことはしていなかったのに、こっちの素性を知った保険屋が、オレを引かせるよう元不良デカを雇ったんだな。あんときは突っぱねたが、そういう商売に精を出しているマル暴は少なくないね」

 一般的に、マル暴には、ヤクザやその周辺者と近しく付き合っている刑事が少なくないとされる。暴力団の実態解明のための情報収集が目的だが、「ミイラとりがミイラになる」ケースが後を絶たず、“不良デカ”と化している。関西の民族派団体トップが言う。

「そもそも大阪府警や兵庫県警のマル暴なんか、今どきのヤクザよりそれらしいカッコしとる。以前、マル暴に嫌がらせみたいにつきまとわれたとき、あんまりしつこいから所轄署に『ヤクザに待ち伏せされて困っている』と通報してやった。そしたら制服警官が飛んできて、『ホンマですね、自分らに任せとってください!』と張り切ってましたわ(笑)」

 身なりや振る舞いがヤクザに似るようになった刑事に対し、素性を知らない一般人は当然、相手をヤクザと勘違いして、畏怖するようになる。コワモテと権力の両方を備えたマル暴の倫理観が破綻すれば、ヤクザをしのぐ厄介な存在になりかねないのだ。

「県警のお肉まだ?」マル暴の“シノギ”術

「最初はシボレーのSUV、サバーバンに乗りましたが、しばらくするとそれを売却し、ダッジのアメ車を買いました。ハーレーダビッドソンのバイクにも乗っていました。この資金もすべて覚醒剤の密売で得たものです。平成13年に入ると、今度はポルシェが欲しくなったので、ローンを組んで買いました」

 これは北海道警銃器対策課の元警部・稲葉圭昭氏の著書『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)で明かされた証言の一部だ。

 稲葉氏は03年4月、覚せい剤の使用・営利目的所持、銃刀法違反の罪により懲役9年の判決を受け、12年9月に満期出所している。

 現役警部が覚せい剤の密売に手を染めたこの事件は、前代未聞の警察不祥事だったが、これは単なる一捜査員の暴走として片付けられる問題ではない。

 稲葉氏が覚せい剤密売に手を染めたそもそもの動機は、銃器摘発に必要な「経費」を捻出するためだった。当時、銃器の摘発件数は各警察本部の実績を表す最大の指標であり、上層部は現場に対し、「もっと挙げろ」とハッパをかけまくっていた。

 北海道警に限った話ではないが、銃器摘発の実績を上げるには、「エス(スパイ)」の運用などに多額のカネがかかる。しかし、担当部署に割り当てられる捜査費は、架空の出張経費を計上するなどの手口で組織に裏金としてプールされ、末端の捜査員には渡らない。裏金は、時には特別な捜査費用として支出されることもあったが、大部分は署長や捜査幹部の栄転や引退などに伴う「祝儀」として、上層部のフトコロに消えていた。現場の刑事たちは、自分の“甲斐性”でやり繰りするほかなかったのだ。

 そんな環境の下、逸脱行為を繰り返していた稲葉氏は倫理観に破綻を来し、前述したような暴走に至ったわけだ。

 そして、北海道警のみならず、全国の警察はこれとよく似た暗部を、大なり小なり抱え込んでいる。関西系ヤクザ組織の元3次団体幹部が話す。

「暴対法ができた後も、ヤクザがどうして繁華街でミカジメを取り立てられるかわかるかい? 地下カジノとか外国人クラブとかホストクラブとか、規制に引っかかる業者に対する警察の捜査情報を提供できるからだ。じゃあ、どうしてヤクザが捜査情報を取れるのか。銃器摘発で協力したり、組織の人事情報を流してやったりと、日頃からいろいろと警察に対して便宜供与をしてやっているからだ」

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