――2007年、韓国の宗教団体「摂理」の教祖・鄭明析が、女性信者に対する強姦致傷などの容疑で逮捕された。当時、“韓国のSEX教団”という文字がメディアを賑わせ、記憶に残っている読者諸氏も多いことだろう。以降、韓国カルト教団の噂はあまり聞かない……と思いきや、実は、摂理にも勝る過激な新勢力が続々日本に進出しているという──。
『越境する日韓宗教文化』(北海道大学出版会)
手元に、とある教会での礼拝や祈祷会への参加を呼びかける、一通の案内がある。日本語とハングルで書かれたもので、教会の場所は東京の新宿区百人町。韓流のメッカ・JR新大久保駅からほど近い所にあるマンションの一室だ。
この界隈には複数の韓国系キリスト教会があり、信仰の厚い韓国人は、信者同士が自宅などを開放して集まりを持つこともある。案内には韓国の伝統的なキリスト教団である「大韓イエス教長老会」の名前も記されていて、一見した限りでは、この辺ではありふれた集まりへの呼びかけのようにしか見えない。
しかし、あるキリスト教会関係者は、次のように断言する。
「その案内を配布したのは牧師を名乗る韓国人女性なのですが、彼女が長老会に所属しているなんて、まったくのウソです。それどころか、まともにキリストを信仰してすらいない。その教会の正体は、韓国系キリスト教の異端『S』という韓国のカルト教団が信者勧誘のために設けた“偽装教会”なのです」
Sは今、韓国で最も勢いがあり、かつ最も警戒されているカルト教団のひとつだ。1980年代の設立から現在までに、8万人を超える信者を獲得している。
その教理は、 教会の信徒数が14万4000人に達したとき、自分たちは肉体の永生(不死)を得るという、救済条件付きの終末論だ。
これに洗脳された信者は家を出て、仕事や家庭を顧みず勧誘に没頭するようになる。そのため、教団は信者の家族と衝突を繰り返す一方、韓国マスコミから不明朗な資金の流れを指摘されたこともある。
Sの常套手段は、一般の教会に「洗脳工作員」を潜り込ませて信者を横取りするか、あるいは教会そのものを乗っ取ってしまうというもの。前出の教会関係者によれば、「日本でも複数の教会がSの攻勢にさらされている」という。
韓流ブームや短期ビザの緩和によって、日韓の人の往来がかつてなく活発になった今、韓国発祥のカルトもまた、勢力拡大をもくろんで続々と日本への進出を強めているのだ。
長年霊感商法対策に取り組んできた渡辺博弁護士も、警戒感を隠さない。
「統一教会など先発組がすたれないうちに、新しいのが次々やってくる。最近では、国粋主義的発想を持った宗教性を秘匿して『D』というヨガスタジオを展開しているグループが、入会者を『運気が悪くなる』などと脅し、大金の支払いを強要する問題が起きている。一部は訴訟に発展していますが、まだまだ氷山の一角。このままでは、やられ放題になる」
今年5月には、やはりキリスト教系の教団である「G」の動きをめぐり、関東の教会関係者たちが韓国大使館・文化院に抗議に訪れる場面があった。
同院はこの月の始め、とあるNPOが首都圏で主催した文化イベントの後援に名を連ねていた。宗教関係者らが問題視したのは、このNPOがGの関係先であり、イベント中にも宗教行事が行われていたこと。また、埼玉県内で行われた音楽会に地元市長を招待するなどして、教団の信用を高めようとしていたことだった。
同院はこうした指摘に対し、「後援したのは都内でのイベントだけで、埼玉の音楽会は知らない」などと釈明。宗教関係者らの求めに応じ、経緯について文書で回答している。