NHK、楽天、グーグルに"リクナビ"するスタッフたちも! リクルート編集者がバラす金と洗脳

――「リクルートといえば営業」というイメージが強いが、そんな営業が取ってきた広告を掲載するためのメディアを支えている編集者の存在もまた、同社にとっては欠かせない。ここでは、そんな媒体編集者たちに、分社後の社内の現状と、リクルート上場後の未来予想をお願いした。

[座談会参加者]
A…新卒入社の40代元MP職(退職済)
B…中途入社の30代現役MP職
C…外注編集プロダクション40代社員

個人的な意見だが、「ゼクシィnet」の花嫁カフェがキラキラしすぎて怖い。

──今日は、リクルート=営業、というイメージから、普段なかなか取り上げられない“編集者”のみなさんにお集りいただきました。早速ですが、編集者も営業同様、ノルマみたいなものはあるんでしょうか?

A うーん、ノルマとは言わないかもしれませんが、これは僕が在籍していた当時から行われているんですが、「Missionシート」という、いわゆるビジョンシートみたいなものを半年ごとに書かされるんですよ。自分が今どうあるべきか、今度どうなっていきたいかなどを、抽象的な表現だけでなく具体的な数字も含めて構成して、半年後にそれを元にどこまで達成できているかを評価されます。編集者の場合、具体的な数値で求められるものは所属部署や上司によって変わるんですけど、僕がいた編集部では、アンケートで回収する、担当した記事に対しての読者からの支持率でしたね。

B 記事に対する支持率といえば、社内表彰もある。部署ごとにエディトリアルコンテストみたいなものを開催したりして。

──それで表彰されると、やはり営業職同様にインセンティブが?

A はい。ただ、営業がもらえる額とは全然違いますよ。編集は賞を取っても3万円程度。営業は正社員なら一番下の賞でも5万円くらいからで、トップ営業マンになると、普通にウン十万円はもらえますから。

C しかも、営業の場合、期ごとに表彰されるMVP【編註:所属する事業部の中で、売り上げや革新性の面で事業に最も貢献した営業マンに授与される賞】とかの賞のインセンティブのほかに、個人の目標達成に対するインセンティブは別途で入ってきますからね。

A MVPを取る人と取れない人では、年収で100万円以上は差がつきますね。

──そうなると、このご時世でも、1000万プレイヤーも少なくないのでは?

A いることはいるでしょうけど、昔に比べたら人数はかなり減っていると思います。そもそも97年に河野栄子さんが社長に就任して、バブル崩壊による負債を返済するために徹底したコストカットが行われて以降、給料の水準が下がっていますから。もちろん、営業マンだけでなく編集者も。

C これは聞いた話ですが、リクルートでは本社と事業部それぞれの業績に合わせて2段階方式でボーナスが出るらしいんですけど、「R25」が創刊したばかりの頃、当時のマネージャークラスは、年収にして1000万円くらいもらってたとか。もちろん、ほかの媒体もそうだったらしいですけど、「R25」も、初めの頃は景気が良かったんですよね。その後は下がり続ける一方だそうです(笑)。

──ちなみに今、編集業務はほとんど、外部スタッフが中心だと聞きました。

A それは本当です。なぜかというと、もともとあった「正社員」とCS……わかりやすく言えば「アルバイト」という雇用形態に加え、CVと呼ばれる「3年契約社員」を導入したことによって、編集スキルを持つ人間が育ちにくく、かつ定着しにくい環境になってしまったので。このCVを特にあてがわれたのが編集部門で、僕もある編集部を預かっていた当時、会社に対して「後任になる正社員が欲しい」と再三訴えたのに、結局CVもしくはCSの人しか来なかった。彼らを私なりに育て、3年というスパンの中でいっぱしの編集者にしましたが、結局のところ、その多くが「卒業」を迎え、社外に羽ばたいていってしまいました。

C どんな職種でも、3年続けてようやくスタートラインに立つ感じですからね。

A そこで辞めざるを得ない彼らは、どうするかというと、「リクルートに在籍していた」という経歴を武器にして、競合他社に活躍の場を移してしまっています。

──手広いだけに、ひとくちに競合といってもさまざまな業界があると思うんですが、最も多く人材が流出している先は?

C ウェブ業界ですかね。メッセンジャーアプリ「LINE」や検索エンジン「NAVER」などを運営しているNHN Japan。あそこは、なんとなく媒体作りの研究の仕方が、リクルートっぽいんですよね。

B 「NAVERまとめ」の編集長は元リクルートだし。グリーやグーグルも多い。

C あと、楽天もよく聞きますね。

──そんな競合に人材を“リクナビ”しちゃってるとは……。ところで今、一番パワーのある媒体は? やっぱり、不動産サイト業界でトップの「HOME’S」を抜くのも間近といわれている「SUUMO」とか?

B “媒体”というとウェブも含むので、リクナビなどの人材系がナンバーワンですが、紙媒体で最も元気なのは、「ホットペッパー」ですね。子会社別に見ても、「ホットペッパー」や「じゃらん」など、“日常消費領域”に分類される媒体を手がけているリクルートライフスタイルが一番。

A とはいえ、「SUUMO」も戦略的には十分成功していると思います。もともと“住宅領域”では賃貸や住宅購入、注文住宅など分類別にメディアを作っていたんですが、これらを「SUUMO」というブランドに統括したことによって、世間に「不動産といえばリクルートのSUUMO」といったイメージを浸透させた。また、「スーモ」というイメージキャラクターも功を奏しましたね。あれが表紙にいるだけで、安心感を抱く消費者は多いそうです。

C ただ、そんな「SUUMO」もフリーペーパーのほうの原稿料は安いんですよ。まぁリクルートは、10年ほど前から総じて紙媒体の制作費を大幅に下げたので、安いのはどこも同じでしょうが。全盛期は1ページ単価で編集費3万円・原稿料3・5万円くらいで制作費がくまれるのも珍しくなかったんですが、今は大体、編集費1万円・原稿料1・5~2万円とかですからね。ページ数のある大型企画をデザインも含めて丸投げされたらそれなりのお金にはなりますけど、そうでない限りは、外部スタッフにとっては厳しい状況です。

──なるほど。では、「ゼクシィ」はいかがでしょう? 「結婚情報誌といえば」の代名詞をほしいままにしているので、絶好調なように見えますが。

A ゼクシィブランドは確かに強いです。しかし、今年10月の組織再編により、「ゼクシィ」が組み込まれた子会社リクルートマーケティングパートナーズは、決して強いとは言い切れない。若者の車離れによる懸念がつきまとう「カーセンサー」とか、今後さらに少子化のあおりを受けそうな「リクルート進学ブック」などと一緒にされてしまったので、その中で「ゼクシィ」は稼ぎ頭にならなければなりません。

──そういえば、「ゼクシィ」の編集部に配属された新入社員は、初めの懇親会で「ハッピー、ハッピー、ハッピー」というスローガンを唱和させられる……なんて怖い話を聞いたのですが、どの編集部も同様に士気を高めているのでしょうか?

A 僕が配属されていた部署では、そのようなことはありませんでしたが、営業主体の部署だと、もしかしたら……。もともとリクルートには、社員の士気を高めることに重きを置くような社風があるので。「リクナビ」などの人材事業部や「じゃらん」を扱う旅行事業部なんかでは、「キックオフ」と呼ばれる決起集会のためにわざわざ横浜アリーナを貸し切って、安室(奈美恵)ちゃんとか、ビッグネームのアーティストを呼んだりしていますからね。

──いち事業部でアリーナ……さすがです。さて、リクルートは来年度の株式上場を控えていますが、社内のムードに変化は?

B 今のところは、特に変わってないです。まぁ株価が未公開な今も、自社株を持っている社員の「辞める時に手放す自社株価を少しでも高めておきたい」という気持ちが仕事への意欲につながり、それによって会社全体がうまく回っている面もあるわけで。バブル崩壊で1兆円超えの負債を抱えた時だって、それで乗り切った感もありますし。

A とはいえ、上場して株式が公開されることは、必ずしもリクルートにとって良い結果を生み出すわけではない……と僕は思います。今は株の大多数を社員、それから物を言わない安定企業に預けているので、会社経営に口を出す者はいない。でも、株式を公開したことで大株主が現れたら、その人の要望を汲み取らなければならなくなり、今までのように経営陣の意思だけで会社が回せなくなるかもしれない。

──ちなみに上場前のリクルートの制度としては、退社時に自社株を売却するとしたら、取得単価で換算されるのでしょうか?

B 基本的に、株価が下がって損したケースはないと思いますよ。株を持っていて40代後半で会社を辞めたヒラの営業マンが、退社後に1億円くらいの資産があって、毎日飲み歩いてテニスして……という悠々自適な生活を送っているほどですから(笑)。

A 僕がリクルートに入社したのは約20年前なんですが、その時は1株1000円未満でしたね。今は1株1万円くらいになっているので、およそ10倍。10年前に1万円分買っていれば今は10万円、1000万円分なら1億円になっているわけです。

──で、どのくらい儲けられたんですか?

A それは、言えません(笑)。

(構成/アボンヌ安田)

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