――1998年から02年日韓ワールドカップまで日本代表監督を務めたフィリップ・トルシエ。エキセントリックな言動で注目を集め、毀誉褒貶の多い監督だったことはたくさんの人が記憶しているだろう。当時は日本サッカー協会との確執も噂された彼だが、あれから10年を経た今、その「思考」はどう変化しているのだろうか──。
現在はFC琉球(JFL)の顧問を務める傍ら、深圳紅鑽(中国2部リーグ)の監督として日々ピッチに立っているフィリップ・トルシエ。彼は今、日本サッカーをどうとらえているのだろうか? さっそくインタビューへと進もう。
(写真/宇都宮徹壱)
──あなたが日本代表監督だった頃に比べると、日本サッカーは大きく変わったと思いますが、現在の日本サッカー界をどう見ていますか?
トルシエ(以下、ト) 健全に発展しているし、日本の“サッカー・メカニズム”はとてもよく機能しているという印象だ。
──まったく問題はないと。
ト そこまでは言わないが、国内のインフラは整備され、モチベーションの高い選手がプレーする優れたリーグがある。技術に優れた選手を育成するシステムも整い、選手がヨーロッパで成功するパターンも確立した。若い選手たちは彼らを見習いながら、ためらいなくヨーロッパ行きを目指しているだろう。
──そこはカズ(三浦知良)やヒデ(中田英寿)の時代から隔世の感があります。
ト 以前「日本はどうやって進歩すればいいのですか?」と質問を受けるたびに、「日本人選手が海外で認知されるようになることだ」と答えてきた。彼らが次々と海外に出ていくとき、日本はさらに進歩していくと。選手の国際的な評価が高まった今、進歩は加速している。海外で活躍する選手が増えれば増えるほど、国内に残る選手のモチベーションも高まり、サッカー自体も進化していく。
──しかしそれとは別の問題で、選手の流出とリーグの空洞化を引き起こしています。
ト 日本の経済的な問題だと私は思う。特に外国人選手についてはそうで、今日の経済不況で問題を抱えた国にある多くのクラブは、世界レベルの選手を獲得できなくなった。また選手が国外に移籍するのは、日本だけでなくブラジルやアルゼンチン、コートジボワールなど、世界中どこでも同じだ。金を払ってでも日本人を獲得したいと望む国やクラブが増えたからそうなったわけで、危機とは正反対のポジティブな現象だ。国内にスターが残っていないからといって、日本が悪いということにはならない。
──そうかもしれませんが……。
ト 確かに5~6年前と比べてもJリーグにはスターの数は少なく、観客に与えるインパクトは少々物足りないし、スペクタクルに欠けるのも事実だ。しかし進歩の度合いでいえば、今のほうがずっとよくなっている。
──しかし現実には、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)でもJリーグ勢はずっと勝っていません。
ト それは経済的な理由だ。日本のクラブは、違いを作り出せる外国人選手を獲得できない。中国はインフラや育成などさまざまな面でとても遅れているが、経済力にものを言わせて、クラブが最高レベルの外国人を獲得できる。