投資を受けたらヤバいのはどこ!? 大手IT企業がこぞって参戦するベンチャーキャピタル最新型の陥穽

──日本ではベンチャー企業を育てるための環境が充実していないと、長らく言われてきた。その理由のひとつが、ベンチャーキャピタルの非充実だ。しかし近年、サイバーエージェントやグリー、DeNAなどのIT企業がVCを持つ潮流が生まれてきている。何がそんなにオイシイのか? スタートアップブームを煽るVCの貪欲な動きに注目してみたい。

『[概論]日本のベンチャー・キャピタル』(ファーストプレス)

ここ最近のIT業界で、にわかに「ベンチャーキャピタル事業」が活性化している。といっても、金融系や政府系の大手ベンチャーキャピタル(以下、VC)が積極的にITベンチャーに投資しているわけではなく、国内で成功している有名なIT企業、ウェブ系企業が、自らVC事業に乗り出しているのだ。

 今年9月にはヤフージャパンが100%出資の子会社「YJキャピタル」を設立し、総額10億円の投資ファンドを組成したことが話題となった。また、サイバーエージェントによる「サイバーエージェント・ベンチャーズ」は多くのアプリ開発会社に出資しているし、ほかにもグリーによる「グリーベンチャーズ」や、DeNAの「Incubate Fund No. 1 Limited Partnership」など、メジャーなウェブ系企業が軒並みベンチャーファンドの子会社を持ち始めているという状況だ。

 こうした動きは、近年の“若者の起業ブーム”と相まって新しいITベンチャー企業を次々と生み出しつつあるが、すでに大規模な人気サービスを保有している大手IT企業が、VCとして小規模なスタートアップに投資する狙いはどこにあるのだろうか?

「そもそも日本におけるIT系ベンチャーファンドは、90年代後半に光通信などの携帯電話販売店やベンダーが、IT企業へ盛んに投資し始めたのが源流。当時はまだ金融法や商法が整備されていなかったので完全に手探りでしたが、“活力あるIT企業がITベンチャーに出資する”という現在の流れとよく似た状態だったといえます。

 その後、インターネットが普及し始めた00~01年頃からは大手VCによって多くのファンドが作られ、渋谷のビットバレーに続々と生まれた有象無象のITベンチャー企業に投資することがブームになりました。そこから“日本のグーグル”は生まれなかったものの、DeNAやミクシィといった成功例も出てきて、それらがIPOすると株価は元値の100倍以上まで上がった。まさにバブルの時代で、これが日本におけるIT投資VCの黄金期ですね」

 こう教えてくれたのは、ベンチャー企業向けの活動支援を行っているNPO法人「ジャパン・ベンチャー・リサーチ」の代表理事であり、自身もベンチャー起業家として「セールスフォース・ドットコム」を設立(日米同時立ち上げ)した経歴を持つ北村彰氏だ。

「ところが、当時のVCというのは基本的に投資した企業をIPOさせないと出資者が儲からないので、バブルを背景にまだ成長しきっていないベンチャー企業を無理やり上場させる傾向があったんです。そのため、当時IPOしたIT系ベンチャーは、調達する資金は大きくても堅実な事業成長ができず、見かけ上の利益を増やすために企業買収を繰り返したり、不正処理で株価を維持しようとする事例が多く露呈しました。結局、VCは投資した金額を回収できず、新たなファンド組成が困難になり、VCは縮小することになる。VCが儲からなければベンチャー企業にお金が流れず、リスクを背負ってIPOをしても儲からないという、ベンチャー企業にとっての冬の時代が長く続いていたわけです」(北村氏)

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