──価総額で世界一の企業となったアップル。その競争力の源泉のひとつは、「内部編」でも触れたような厳しい社内競争にある。しかし同社は、社外のパートナーやライバル企業に対しても厳しい姿勢で臨むことで知られている。
『アップルのデザイン』(日経BP社)
そのひとつの表れが、世界中で繰り広げられているサムスンとの訴訟合戦だ。米国で2011年、サムスンのアンドロイド搭載スマートフォン「Galaxyシリーズ」が、iPhoneのデザインや特許を侵害しているとして提訴したのを皮切りに、世界10カ国で特許をめぐる争いが繰り広げられた。今年8月、米国ではアップル側勝利の判決が出た一方で、オーストラリアや日本ではサムスンの言い分が認められるなど、一進一退の状況となっている。
この裁判は、対サムスンではなく、実はアンドロイド陣営を相手とした代理裁判と目されており、グーグルのエリック・シュミット会長が、アップル社外取締役を務めていたにもかかわらず、iPhoneを模倣するかのようなアンドロイドOSを開発したことに対するジョブズの怒りがきっかけだといわれる。
IT業界にとって特許は、製品開発のコア技術になると同時に、ライバル企業のビジネスを妨げる武器にもなる。ただし、特許をめぐる裁判は長期間にわたりがちで、多額の裁判費用もかかることから、早い時期に和解するケースが多い。さらに、裁判の過程で企業秘密に関する資料が公開されたりもし、決して企業にとってメリットばかりではない。
今回の裁判でも、iPhone開発にかかわるアップル社内の資料が表に出てきて、これまで厚いベールに隠されていたアップルの製品開発の過程が明るみにされてしまった。
「実はiPhoneはソニー製品を意識していたことが判明しました。iPhone4にそっくりな形にソニーのロゴをいれた初期スケッチまで明らかになり、アップルにとって痛かったはずです」(Y氏)
しかし、これだけ血みどろの争いを繰り広げながら、アップルにとってサムスンは完全に敵というわけではない。iPhoneやiPadに搭載されているCPUは、設計こそアップルが行ったものだが、製造はサムスンに委託しているのだ。
「サムスンはアップルのサプライヤー(部品供給業者)の中でも最大級の取引相手です。アップルとしては、ケンカしつつも仲良くしていかないといけない」と松井氏も解説する。
裁判の過程でサムスンは、iPhone全体の26%がサムスン製の部品だと明らかにしている。つまり、アップルにとってもサムスンはパートナーであり、一方でサムスンにとってもアップルは超優良顧客。両者とも、それをわかった上で主導権の取り合いをしているだけ、という側面もあるのだ。
それに対して、アップルにまったく逆らうことができないのが日本企業だ。シャープやソニーなどの大手企業も、アンドロイド搭載スマートフォンを発売する一方で、液晶パネルやカメラ用センサーなどのiPhone用パーツを大量にアップルに納入している。
「サムスンだからこそ、アップルとケンカできているともいえる。ブランド価値でも、サムスンのほうが日本企業を上回っているでしょう」と松井氏も言うように、アップルにとって日本企業は部品納入業者にすぎず、もはやライバルではないのだ。