『いざ志願!おひとりさま自衛隊』(文藝春秋)
尖閣諸島の国有化をめぐり、中国と一触即発のピリピリした状況が続く中、「防衛出動」を託されている防衛省・自衛隊がとんでもない「2つの事件」を抱え、内憂外患に揺れている。
ひとつは、9月に東京地検の特捜部も防衛省などへの家宅捜索に動いた「ヘリコプター納入疑惑」。この事件、次期多用途ヘリコプター「UH-X」の開発に必要な「仕様書」を知る立場にある陸上自衛隊の中堅幹部クラスが、公表前に納入候補である川崎重工業サイドへまるまる内容を伝えていた疑いが浮上しており、大手紙社会部記者は「防衛省からの告発を受けて、特捜部の汚職事件を担当する直告1班が投入された。大事件に発展するかも」と興奮気味だ。
だが、防衛省内では受け止め方が違う。同省関係者は「戦闘機なら西側諸国の外国製に頼らざるを得ないのが現状だが、日本の軍需技術を守り、流出を食い止めるためにも、軍事ヘリくらいは国産でいきたい。国内の軍需産業を守るのに、情報交換する程度のことは許容範囲だ」と語り、「検察は、小沢事件の時みたいに手柄を立てたいがために事件を大きく見せ、結局、国まで売る気ではないか」とまで言いのける。
自衛隊
他国からの侵略に対して、国の防衛を行う組織。治安維持や警備活動、災害派遣、国際平和活動なども行う。防衛省内に置かれた機関で、陸上・海上・航空自衛隊から編成される。1950年に発足された警察予備隊が前身で、保安隊への改組を経て、54年に正式設置された。現在の自衛隊員は約23万人。
だが、今回取り上げるのは、賛否くすぶるこうしたマスコミ受けのよい事件ではない。大手メディアが取り上げない、もうひとつの事件だ。
日本共産党の機関誌・赤旗(9月4日付朝刊)が、その実態をすっぱ抜いた。陸海空の3つの自衛隊それぞれに配置されていた部隊を統合して09年にスタートした自衛隊情報保全隊が、特定団体への徹底した監視活動と記録のデータベース化を続けていることを示す内部資料を赤旗が入手し、紙面で公開したのだ。
記事によると、入手資料は「注意 特に厳重な取り扱いを要する」と指定され、「週報」と表題がついた内部文書。監視対象者は、在日イスラム教徒、平和運動に参加する市民、日本共産党や社会民主党の議員、労働組合員、自治体幹部、新聞記者など広範囲にわたる。
監視活動が行われたのは、10年秋。横浜でAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が開かれた時期で、在日イスラム教徒の動向を探っていた警視庁公安部外事3課から監視対象者の個人情報が流出する事件も発覚している。この事件に対しては、被害者が警視庁に謝罪を求め、大手マスコミも大騒ぎしたのだが、同じ監視活動を自衛隊も続けていたことがわかったのに、今回の件は報じようとしない。
「監視対象が共産党だからですよ。マスコミの共産党アレルギーは根深い。赤旗のスクープを後追いするというのも不本意なんでしょう」(大手通信社デスク)