──この1年余り、国内各地で行われている反原発デモ。その中で、今もっとも参加者を集めるのが、毎週金曜夜に首相官邸前で行われる抗議活動だろう。しかし、その現場には、いわゆる「過激派」と呼ばれる新左翼系セクトが混在しているという情報も。日本でデモがタブー視される原因を生んだ過激派が、今また息を吹き返すのだろうか?
(写真/伊藤星児)
8月17日金曜日。霞が関の首相官邸前は人々の群れと色とりどりのプラカードで溢れていた。
18時を回ると、予定通りデモが始まる。「原発再稼働、反対!」「コドモを守れ!」というシュプレヒコールに合わせるようにして、ドラムやジャンベによるリズムが省庁で囲まれたエリアを覆い、参加者各自がお手製のプラカードを手に掲げる。奈良美智による不機嫌な顔の女の子のイラストと「NO NUKES」の文字が描かれたプラカードを掲げている人も多い。忌野清志郎の遺影を前に、反原発ソング「サマータイム・ブルース」を流す家族の姿もある。「ファミリースペース」と掲げられて区切られたブースでは、子どもたちがにぎやかな音楽に笑顔を見せ体を揺らし、警備の警官の姿が少ないエリアでは、野外フェスに遊びに来ているような錯覚すら起こった。霞が関で毎週金曜日に行われている、通称「官邸前デモ」の光景だ。
これが3度目の参加だという40代の男性は、「この雰囲気がいいんですよね」という。
「小さい子なんか、夏祭りに来てるのと区別つかないんじゃないんですかね。80年代にチェルノブイリ事故で反原発運動が盛り上がった時も抗議に参加しましたが、シュプレヒコールとか行進とか、昔ながらのデモで居心地が悪かった。今回の官邸前デモの良さは、誰でも気軽に参加できる点なんです」
男性は「原発をゼロにしてから死ぬのが、大人の責任だと思う。」と書かれた印象的なのぼりを掲げていた。友人のデザイナーが作成して仲間内に配っているという。
ほかにも、参加者各自が作ったオリジナルのプラカードやのぼりが並ぶが、団体名を掲げたのぼり旗はひとつしかない。官邸の目の前の歩道と、国会議事堂正面の歩道に広げられた「首都圏反原発連合」(以下、「反原連」)の旗。いやむしろ「団体名」というのも正確ではないのかもしれない。「反原連」は3・11以来、それぞれに脱原発を目指す活動をしていた13の団体の有志が集まって2011年9月に立ち上げた「ネットワーク」であり、通称「官邸前デモ」の主催グループ/呼びかけ人である。彼らが今年3月、数百人程度で始めたというこの官邸前デモが今、人々を巻き込んで大きなうねりを巻き起こしている。デモは回を重ねるごとに参加者数を増やし、7月29日の国会包囲デモでは10万人を超える人々が参加した。当初はこのデモに対して「大きな音だね」と発言していた野田首相もしだいに無視できなくなり、8月22日には「忌憚のないご意見をお聞かせいただければと思います」と、「反原連」のメンバーたちと面会を行うまでに至っている。
このデモがここまで盛り上がった背景を、「反原連」のメンバーのひとり、小泉兵義氏はこう語る。
「まず官邸前で反原発を訴えるっていう〈意味〉が、わかりやすかったんだと思います。訴えるメッセージをシングルイシュー、つまり『反原発』の一点に絞ったということですね。あとはタイミングじゃないでしょうか。6月に野田政権が大飯原発再稼働の決定をしたことが引き金になって、それで爆発的に人が増えました」
ほぼ毎週金曜日の18~20時の間に行われ、行進も警察との衝突もない。明確なリーダーを置かず、ツイッターやフェイスブックなどを通じて参加者を募るスタイルは、日本における市民運動の新たな形としても注目を集めており、10年に中東で巻き起こった「アラブの春」などの「ツイッター革命」の流れになぞらえられることもある。
「今も自分たちからのアナウンスは、ツイッターが基本ですね。でもそれだけじゃない。6月、ちょうど1万人を超えたぐらいで『報道ステーション』(テレビ朝日)に取り上げられて、そこからまた数万人規模に増えたという経緯もあります。それまではデモ経験者が来てる雰囲気だったのが、一気に違うタイプの人が増えた感触ですね。最近は有志でプレス対応担当をしてくれる参加者もいて、各報道機関にリリースも流しています。それでも、実参加者の数分の一にすぎない警察発表の人数しか伝えないメディアも多いですが」
そう苦笑しながら小泉氏は、インカムでメンバーと随時連絡を取り合い、デモ全体の見回りを行う。道々では時折、顔見知りらしい警官と挨拶や会話を交わす。
「警察とある程度連携を取るようになったのは、人数が爆発的に増えた6月のデモで、路上全体に人が溢れてしまって事故の心配があったため。子ども連れの人もたくさん参加してるのに、将棋倒しなどが起きてしまったら大変なことになりますから。ただ、いわゆる新左翼系の年配の人なんかには『なんで警察と仲良くやってるんだ』とか言われることもあります」