大御所作家も売れずに売り上げ粉飾!? 苦境に立つ文芸編集者”タブー”座談会

――売り上げが減少の一途をたどる中で、ますます苦しい文芸書籍。その編集者たちが、直木賞をはじめとした文学賞選評の裏側や、昨今のメディアミックスの功罪、そして文芸界の動向について追根問底! 文壇ゴシップをメッタ斬りした──。

[座談会参加者]
A…中堅出版社社員。文芸編集歴15 年。
B…中堅出版社社員。文芸編集歴10 年。
C…中堅出版社社員。営業歴8年。

『消えた受賞作 直木賞編』(メディアファクトリー)

──文芸の話題として大きいものといえば、やはり7月に発表された第147回直木賞、同じく芥川賞。直木賞は辻村深月の『鍵のない夢を見る』【1】、芥川賞は鹿島田真希の『冥土めぐり』【2】と、女流作家による2作が選ばれています。

A 本が売れなくて、“天下の文春”もめちゃくちゃ景気が悪い。実際、同社の編集者も二言目には「本が売れない」って嘆いてますからね。

 今回、直木賞を主催する文春の本が受賞したのは、まあ納得という感じ。去年は同社から出なかったから、ほっとしてるんじゃないか。

B 一年に一作は、文春の本が取るのが通例だったからね。ただ、直木賞も落ちたものだと思う。かつては「受賞作」というだけで30万部は売れたけど、今は10万部がいいところ。10年下半期の直木賞で、W受賞となった木内昇の『漂砂のうたう』(集英社)なんて、10万部近く重版をかけて実売2~3万部だったとか。

C 芥川賞は、戌井昭人、山下澄人と劇作家を入れたり、なんとか話題作りをしようとしているのが見えるけど、結局今回は地味でしたね。実力ある2人には間違いないんだけど。

A 直木賞の権威が失墜したことには、02年下半期の選考会で『半落ち』(講談社)に「欠陥がある」と指摘された騒動で“決別宣言”した横山秀夫と、08年上半期に『ゴールデンスランバー』(新潮社)について、「候補になると穏やかな気持ちで執筆できない」と辞退した伊坂幸太郎の影響が大きかった。

 それでも文春の編集者の中にはきちんと作品をプロモーションしないで、直木賞やその選考委員への道をちらつかせて、新人作家や他社の担当編集にふんぞりかえっている人もいるんだから閉口するしかない。

C 5月に発表された新潮社の第25回山本周五郎賞は露骨でしたね。候補作には辻村深月の『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社)、恒川光太郎の 『金色の獣、彼方に向かう』(双葉社)、柚月裕子の『検事の本懐』(宝島社)、そして直木賞候補にもなった受賞作、原田マハの『楽園のカンヴァス』──この作品だけ新潮社でした。選考委員の作家・白石一文が、辻村深月とのダブル受賞を強く訴えましたが、本人の言によれば、山周賞を主催する新潮文芸振興会理事長の佐藤隆信氏が「二作では多すぎる」として却下したといいます。白石さんは受賞作を発表した「小説新潮」で、「受賞は一作としたいという腹づもりが当初から理事長にあったと考えざるを得ない」と、告発とも取れる選評をしている。元編集者として許せなかったんでしょうね。

 いずれにしても、最近の文学賞は版元側のロジックで、業界として本来賞を与えるべき作品をスルーすることが多すぎる。直木賞を受賞した辻村深月も、現場では、間違いなく09年に発表した『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』【4】で獲るべきだったという声が多い。今でもこの作品が代表作だし、売りどきだったのに……と振り返る書店員は本当に多いですよ。

今すぐ会員登録はこちらから

人気記事ランキング

2024.11.22 UP DATE

無料記事

もっと読む