――スポーツ界がクリーンな世界だなんていまさら信じてるバカちんはもはや誰もいないだろう。そう、スポーツ界ほど、異常で、珍奇な、キチ○イじみた世界はないのだ。その裏の裏まで知り尽くした佐山一郎(作家)と宇都宮徹壱(写真家・ノンフィクションライター)のクロストークがはじまる。
宇都宮徹壱氏(写真/佃 大平)
──まず本の紹介の前に、最近のスポーツ界のタブーを破ったできごとといえば、やはり原辰徳監督の1億円不倫スキャンダル問題でしょうか。
佐山一郎(以下、佐山) なんで今ごろ出てきたんだろうね。でもこれは野球賭博に加担する暴力団主導の敗退行為(八百長)にも結びつく可能性があるから重大です。95年の引退セレモニーのスピーチで「巨人軍は、巨人軍独特の何人も侵すことができない聖域があります」と原が言っていたのを思い出しました。「聖域」は、ナベツネともうひとつ今回の女性問題だったのかと(笑)。
宇都宮徹壱(以下、宇都宮) 結局、何事もなかったかのようにナイターの番宣に出てますよね。あれがJリーグの監督だったら……。
佐山 間違いなく契約解除でしょうね。監督はご解任。スポーツ界のタブーってなんなんだ? と、“そもそも論”に戻した場合、暴言などでタブーを破ってきたのはむしろ権力の側です。ノンフィクション作家の保阪正康さんの本に『戦後政治家暴言録』(中公新書ラクレ)というのがあるけれど、暴言録のスポーツ版を編集したら案外簡単にできてしまうのではないかと(笑)。たとえば、「あっ、オシムって言っちゃったね」と川淵三郎が“口を滑らした”あたりが代表的なものでしょう。で、僕らもある種のアブナい系の話を人肌コミュニケーションの道具にしている。
──さて、今回タブー破りのスポーツ関連書ということですが、まずお2人が揃って選んだ本が『Gファイル 長嶋茂雄と黒衣の参謀』【1】です。
佐山 著者の武田さんは角界へのディープ取材で名をはせた、大変有能な書き手です。大相撲八百長問題や力士暴行事件を「週刊現代」(講談社)で追及して訴えられた人。
宇都宮 (【1】が出たのは06年ですが)この本の時代背景として、今から20年前、ちょうどJリーグが開幕して、プロ野球側がサッカーに対していかに危機感を持っていたかが伝わってきます。
──次に宇都宮さんは、『ディエゴ・マラドーナの真実』【2】を挙げていますね。
宇都宮 子どもの頃から筋肉増強剤を打たれていたり、94年W杯のドーピング事件であったり、痛みにも似た衝撃を受けました。でも、もっとすごいのが、マラドーナが今も波瀾万丈に生きていること。ベネズエラのチャベス大統領とマブダチになったり、アルゼンチン代表監督になってクビになったり。ついこの間も、中東の金満クラブの監督を解任されて話題になりました。レジェンドでありながら不死身ですよね(笑)。
佐山 よくよく考えると、薬物使用歴を理由に彼を入国拒否した日本政府当局の厳格主義って二重の意味ですごいよね。“世界知らず”と叩かれる筋合いはないんだけど(笑)。
宇都宮 確かファルカンが代表監督になって最初の試合ですよね。94年のキリンカップ。ところが、麻薬による逮捕歴が引っかかりマラドーナが入国拒否され、アルゼンチンが来なくなって、自分はそのとき『ダイヤモンドサッカー』(テレビ東京)という番組でADをしていて、アルゼンチンの紹介VTRがボツになって慌てて作り直した、ほろ苦い思い出があります(苦笑)。ところで最近、現役選手の半生を描く本が少なくなった気がします。
佐山 選手を保有する側の力が、相対的に強くなっているのが大きいと思う。また、Jリーグのクラブに関して言えば、いまだに親会社からの社長が出向人事で落下傘のように降りてくる。ガンバ大阪の場合は、その弊害がもう如実に結果として表れている(第19節現在、最下位から2番目の17位)。そういう場違い系社長の紹介と評価を一覧で採点すべきだと思うんだけどね。一番のタブーが、実はそこにあるんじゃない。