教授会頼りの大学からは優秀な選手は生まれない!? 理事会vs.教授会の権力争いに揺れる大学経営とスポーツ

──五輪選手には、毎大会、多くの大学生アスリートが選出されている。このロンドン五輪においてもそれは同様だ。早稲田大学のやり投げ代表・ディーン元気選手や、立命館大学からのシンクロナイズド・スイミング代表・乾友紀子選手、中京大学の400メートルリレー代表・市川華菜選手などが、注目を集めている。しかし、五輪選手が輩出されている大学には、ある一定の法則があるようで……。

『大学野球熱闘史』( ベースボール・マガジン社)

 少子化による就学人口の減少で、多くの学校法人の経営が厳しくなっている。国費で運営されている国立大学法人でさえ、統廃合の動きが加速。学校法人が健全な経営を保っていくには、学生数を増やして授業料収入を維持安定化していくことが求められているのだ。

 その手っ取り早い手段が、スポーツ振興による学校法人の「ブランド化」であろう。例えば、高校野球の強豪校として名を売るために、野球のうまい中学生を全国から集めるケースもある。スポーツ校として名を売り、学生を集め、その後、偏差値の高い「特進クラス」などを設置して進学校化する場合も多い。甲子園の常連校である報徳学園や大阪桐蔭は、このケースに当てはまるだろう。

 高校だけではなく、大学も同様だ。有名なスポーツ選手を「特待生」的に受け入れ、そうした選手が広告塔となっているケースもある。五輪に出場し、メダルでも取ってマスコミに持ち上げられれば、その広告効果は計り知れない。バンクーバー冬季五輪のフィギュアスケートで銀メダルを取った浅田真央選手が在籍する中京大学の認知度は、高まっている。早稲田大学でも、スポーツ科学部には著名なスポーツ選手が在籍して、広告塔の役目を果たしている。ロンドン五輪にやり投げで出場するディーン元気選手は、同学部に在籍する最も旬な選手だ。

 このように、五輪に出られるような選手を集めて大学の広告塔として利用し、「ブランド化」を推進していく戦略は、学校法人の経営者の視点からすれば当然のことである。だから特待生用の寮や練習施設の整備に関する投資にも積極的だ。ここでいう経営者とは、企業の役員会に相当する理事会と、そのトップである理事長のことを指す。こうした戦略だけに限らず、授業の中身を改善し、社会のニーズに合った教育を展開して学生を集めていくといった考えも、事実、多くの学校法人の理事会では積極的に提案されている。

 しかし、同じ大学内でも、こうした動きに反発の向きもある。教育現場を預かる教授会【編註:教員人事、教育課程などを審議する、大学の学部・研究科に置かれる機関のこと】では、「著名なスポーツ選手を取るために投資するなら、自分たちが使う研究費を増やしてほしい」(某大学教授)といった考えも強い。

 また、スポーツ選手の獲得だけに限らず、学生数を満たすために推薦入試やAO入試(一芸入試)での入学を増やせば、大学の講義についてくることができない学生が増え、その結果、指導などの面で教授の負担が強まると、教授会の反発を招いている。時には、労組を巻き込んでの紛争に発展することもある。

 例えば2005年、立命館大学はブランド化を推進するために多額の資金を投入する一方で、教授陣の賃金カットを行った。理事会側はそこで浮いた原資を戦略的に使う考えだったが、経営の悪化でもなく行われた賃金カットに対し、教授陣が猛反発。労働裁判にまで展開した。しかも、教員のボーナスをカットしながら、理事長が退任する際には自らの退任慰労金は増額させたことも反発を食らった。

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