パナソニックのTOPパートナーはもはや意地!? 科学技術の祭典としての五輪"参加選手"企業の技術力と政治力

──近年のオリンピックは「ハイテクオリンピック」「科学技術オリンピック」と別称されるように、世界各国の電機メーカーやIT企業が技術の粋を競う、ショーケース的側面を持つ。世界スポンサーを務めるパナソニックをはじめ、サムスン・LGに脅かされる日本メーカーは五輪で起死回生を図れるのか? 今大会にまつわる機器の納入状況から、各社の技術力と政治力を解き明かす。

『技能五輪メダリストの群像』(オプトロニクス社)

 先月号の本誌特集「パナソニックとソニーが死ぬ日」でも詳細にレポートした通り、日本を代表するメーカーたる2社は業績不振が続いている。かつて世界に名を轟かせた“ものづくり大国”日本が、これほど没落すると誰が思っただろうか。しかし、そんな不振に対して、五輪を契機に復権を果たす可能性が、実はある。特にその可能性が高いのが、パナソニックだ。

 同社は1988年のカルガリー五輪以来、14大会連続でAV機器カテゴリーにおいてTOP(The Olympic Programm)スポンサーなる契約をIOCと結んでいる。これは五輪における最高位のスポンサーで、ほかに、オメガ、Visa、P&G、ゼネラル・エレクトリックなどが名を連ねるが、日本企業では過去にもパナソニックしか例がない。そして同社は、16年リオ五輪までの契約をすでに締結している。なぜパナソニックは五輪に肩入れするのだろうか? 企業ジャーナリストの井元康一郎氏はこう分析する。

「正直、意地でやっている部分も大きいと思います。世界の映像機器市場においては、今やソニーが圧倒的に上回っているのです。映画会社を所有することからハリウッドへの影響力もあり、撮影機器に関しても上映機器に関しても、ことシアターシステムなどの分野においては業界標準を策定できるくらいの力を持っている。その中でパナソニックが、『自分たちは、ここだけは負けないようにしよう』としているのがスポーツ中継システムなんです。そういう意識がここ10年くらい続いている。国内でもスポーツ中継技術に関しては同社が占めています」

 五輪会場における撮影は、すべてOBS(オリンピック放送機構)が一括で管理し、撮影した映像をVTRや中継としてテレビ局などに配信している。ここで使われるシステムのすべてをパナソニックが納品しているわけだ。そして今大会では、初の3Dカメラの導入が注目されている。

「カメラ本体、VTR、そして撮影したものを競技場から中継センターに送ったり、カメラの切り替えシステムまで一手に引き受ける、超ビッグプロジェクトです。もちろん技術者もロンドン入りして張りつきます。3Dカメラについては、パナソニックのものは、ハイビジョンの画面を縦に二分割した大きさで撮ってるんですね。そこで縦長に映っているのをデジタルデータで画素補完して大きな一枚の画面に統合し、2つの映像を交互に映して立体視させるという作りなんですよ。これは技術が悪いと不自然な画になったり画素も粗くなるんですが、パナソニックはそこの補完技術がすごく優れています。長年その方式で開発してきただけのことはある」(前出・井元氏)

 しかし、「TOPスポンサーが支払うスポンサー料は、4年間で1社当たり100億円近い」(スポーツジャーナリスト)とされる。莫大な金額を費やして、パナソニックには十分な見返りがあるのだろうか? これだけで、現在垂れ流されている赤字を埋めることも可能なほどの額である。

「何しろ世界的に注目される大会ですから、ブランド力の強化には有効でしょう。そこから実際の売り上げにどれだけつなげられるかは企業のPR力次第。例えば公式計時を担当するTOPスポンサーのオメガは、いわゆる五輪記念モデルを売り出します。パナソニックなら、民生用の3Dカメラも販売していますから、『五輪に使われているのと同じ基盤技術を利用したカメラです』とアピールするのもひとつの手。秒速60コマで映し、生で見ているようになめらかに動いて見える高品位の映像を、一般のカメラでも体験できる、とうたえばいい。TOPスポンサーは具体性を持たせて宣伝してもいいことになっているのだから、単にブランドの宣伝に終始していてはもったいない」(前出・井元氏)

 一方のソニーは、今回の夏季五輪に関してはJOCオフィシャルパートナーですらなく、あまりこの分野には積極的でない印象だ。

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