宮台真司と考える──“あえて”恋愛しないSNS世代と、性愛『質』の変容

──昨年、ある結婚情報サービス企業が新成人を対象に行なったアンケートによると、7割以上が「現在、交際相手がいない」と回答したという。その理由の多くが「恋愛がめんどうくさい」ということだが、現状はどうなのだろうか? 社会学者の宮台真司氏、東京大学大学院で現代社会意識論を研究する大尾侑子氏、そしてかつて大手出会い系サイト「ワクワクメール」のプロデューサーとして辣腕を振るった中園秀樹氏とともに、恋愛とメディアの歴史、そして若者の恋愛離れが進む中での、SNSの役割について考えてみたい──。

宮台真司氏。(写真/佃 太平)

宮台 昨今の恋愛状況を考えるために、歴史を振り返ります。日本のポップカルチャー史を研究すると特異な現象に出会います。性的なメディアが成長すると必ず非性的なオルタナティブメディアが出てきます。

 60年代後半の学園闘争時代、メディア上で「性の解放」が唱われます。フリーセックスという言葉が流行り、性を売り物にした女性誌「微笑」(祥伝社/96年休刊)や高校生妊娠モノをマンガ連載したGS&ファッション誌「セブンティーン」(集英社)が人気を博します。

 すると73年から「乙女ちっく」と呼ばれる一連の少女マンガが始まる。陸奥A子、太刀掛秀子、田渕由美子などですが、読者は「年長のお姉さんたちは性的に自由みたいだけど、私にはとても無理」と思う小中学生女子。彼女らは「白いお城と花咲く野原」的=赤毛のアン的=ヨーロピアン=ロマンチックな「カワイイ繭」に籠り、まる文字が開発されます。

 さて77年になると「乙女ちっく」が性的マンガに進化します。くらもちふさこの進化が典型です。ラブホテル落書帳の中身が、達筆の「身上相談的なもの」から、まる文字の「キャハ! 隣のカップルの声すごいワ☆私たちこれから(ハート)」に変わります。赤毛のアンからミッキーマウスへ。ヨーロピアンからアメリカンへ。ロマンチックからキュートへ。そこでの「カワイイ」は、繭というより、危険な性的実践を無害化する意味変換装置です。

 かくて「少女」は一挙に性的な「女のコ」になる。連動してサーフィン、ディスコ、テニス、少し遅れてペンションがブームになり、「ポパイ」(マガジンハウス)がデートマニュアル雑誌へとリニューアルし、「性と舞台装置」の時代になります。典型が「渋谷公園通り」です。

 かかる「カップルにあらずんば人にあらず」的メディア状況を背景に、77年の宇宙戦艦ヤマトブームを機に創刊された「月刊OUT」(みのり書房/95年休刊)、「アニメージュ」(徳間書店)などをオルタナティブツールとして、マンガやアニメに薀蓄を傾ける若い人の島宇宙ができます。

 ソープ通りだった渋谷職安通りを「公園通り」としてシャレ、アニメや歌謡曲などB級コンテンツを「薀蓄対象」としてシャレたのは、〈ここではないどこか〉の追求に挫折して〈ここの読み替え〉にシフトした僕の世代。ところがシャレる前の記憶を持たない年少世代は、シャレをオシャレと勘違いしてメディアをナンパ文化(デートブーム)で席巻し、それに対する避難所としてのオタク文化(薀蓄ブーム)を並行して進化させた訳です。

 かくて80年代に高校女子の性体験率が急上昇しますが、社交文化の不在を一因とする「性の期待外れ」と、前述の「万事を無害化するカワイイ」を背景に、90年代に援交が拡大。96年にピークを迎えます。女子高生は、ストリートを歩けばオヤジに声をかけられる性的記号になります。すると「ストリートに出たいが性的記号はイヤ」という子らが、96年頃から「不思議ちゃん」ブームを立ち上げる。こうして、メディアを性的なものが席巻すると、脅かされた不得意者たちが、非性的なメディアで自分を守る。この種の動きが戦後何回も繰り返されます。日本の若い人たちにとって、それほどまでに「性は危険」です。

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