──かつて、浜崎あゆみの「Ayuは、こう聴く。」のCMが話題となり、ファンによって発売前に品切れ状態になったとまで言われるパナソニックのMDプレーヤーや、気持ちよく音に聴き入る猿のCMが強烈なインパクトを残したソニーのウォークマンなど、家電はCM効果に支えられてきた。しかし、ここ最近はその効果も薄れているようで……あらためて、その費用対効果を考えていきたい。
『広告小学校』(宣伝会議)
今年2月、電通が日本国内で1年間に使われた広告費を推定、算出している統計データ「日本の広告費」の2011年度版が発表された。それによると、新聞、雑誌、ラジオ、テレビのマスコミ四媒体に投下された広告費を広告主業種別で見た場合、21業種中16業種が減少しており、最も減少幅が大きいのは「家電・AV機器」。10年度の広告費は544億9000万円で、前年に比べて25・7%も下落している。
この状況により拍車をかけそうなのが、“二大家電・AV機器メーカー”ともいえるソニーとパナソニックの業績不振だ。11年10月に日経広告研究所が発表した「10年度の企業別広告費ランキング」によると、単独決算ベースでは733億円を計上したパナソニックが3期連続でトップを維持したものの、広告費の額は前年より4・87%減少。11年度分はまだ未発表だが、11年の同社の財政状態を踏まえると、さらに減少していることが予測される。一方のソニーも連結決算ベースで3期連続トップを維持し、計上した広告費は3964億円で前年比3・36%増……と一見好調のようだが、同じ世界市場でライバルに当たる米アップル社が約1/5の広告費774億円で2倍以上の売り上げを収めたところを見ると、広告戦略が成功しているとは言い難い。パナソニック同様、11年度分の広告費は減少している可能性も十分考えられる。
とはいえ、今もテレビをつければ両社のCMはたびたび見かける。また、ソニーの最新映像技術システムを駆使して各国の世界遺産を紹介する『THE世界遺産』(TBS系列)や、パナソニックの美容機器の紹介を交えた美容情報番組『BeauTV~VoCE』(テレビ朝日系列)など、一社提供番組も多数抱えており、テレビ媒体を使ったプロモーションにはいまだ精力的だ。さらに「広告批評」(マドラ出版/09年で休刊)の元編集長・河尻亨一氏いわく、「僕が見た限り、両社のテレビCMに関しては”昔ながら”の品質をキープしているものが多い」という。
「製品やその都度のミッションごとに広告のアプローチの仕方は変わるものなので、一概には言えませんが、両社共に企業のDNAやブランド感を大切にした丁寧なCMを作っていると思います。超話題作ではないとはいえ、ソニーのCMは一貫してソニーらしい上質な映像が保たれているし、パナソニックのCMにはザ・ドメスティックな安心感がある。それらに起用されるタレントも、若者向けのウォークマンには西野カナ、30~40代が主な購買層のAVレコーダー機器には滝川クリステルと、ターゲットを意識した的確なキャスティングができている。クリエイティブの面からは業績不振を招きそうな要素は見当たりません」(河尻氏)
両社のウェブサイトに設けられているCMギャラリーであらためて視聴してみると、確かにどのCMもクオリティは高い。また、過去に、西野カナや滝川クリステルのCM出演料は1本当たり4000万円以上とも報じられており、それも踏まえると制作費だけで1億円近くのコストがかけられていてもおかしくはない。しかし、両社の業績から考えれば「功を奏している」とは言えず、費用対効果の悪さが否めないのだが……。
「そもそも現代は”タレントCM”でモノが動きにくい時代なのでは? もちろん今でもタレントは世間の注目を浴びる存在です。CMに旬のタレントを起用することで、話題が作りやすいのも事実。しかし、そうやっても売り上げが思うように伸びないのであれば、単純に考えて”CMを見て商品を買う・買わないの判断をする人が減っている”のだと思います。家電やAV機器など高価格帯の商品に顕著ですが、ネットでレビューサイトをチェックしてから購入という流れは、いまや常識になりつつあります。
そもそもCMというものが昔ほど見られていないのでは? 録画で見たらスキップし放題ですしね。そういった機能を搭載した商品をヒットさせたのは家電各社だということを考えると皮肉な気もします。若年層に関してはテレビそのものをあまり見ていないという話もあり、見ていてもCMタイムはモバイルをいじっているとか。
しかし、マスメディアのポテンシャルは依然すさまじい。視聴率1%で約100万人ですから、やりようもあるはず。その意味では、実はタレント起用云々は本質的な問題ではなく、その前にクリアするハードルがある気もします。まあ、今回はそういう趣旨の記事ではないのでそこには立ち入らず、あえて『誰なら効く?』ということを考えるなら、もう二次元に行くしかないのでは?(笑)(初音)ミクさん【編註:クリプトン・フューチャー・メディア社が販売している音声合成ソフトに登場するキャラクター】とかね。今なら、きゃりーぱみゅぱみゅもいいかもしれない」(同)