デフレ対策の金融緩和がデフレを深刻化させた!? 金融緩和にまつわる日本市場の逆説

──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

第22回テーマ「金融緩和が市場に与える逆説」

[今月の副読本]
『日本経済の奇妙な常識』
吉野佳生/講談社現代新書(11年)/777円
現在、日本の財政赤字は深刻な状況に置かれているが、高齢化によって社会保障費の増大は止まらない。財源確保のための増税は、本当に正しいのか? 話題のエコノミストが覆す、日本経済の“奇妙”な常識とは?


 さる4月27日、日本銀行は追加の金融緩和をおこなうことを決定しました。2月に10兆円規模の金融緩和をしたのに続いて、今回は5兆円規模の追加緩和です。

 金融緩和というのは、金融機関がもっている国債などを日本銀行が買い入れ、市中に出回るお金の量を増やすという措置のことです。要するに、民間の銀行などがもっている債券を日銀が買ってあげることで、金融機関にお金を供給するわけですね。なぜそんなことをするのかといえば、人びとの経済活動を活性化させるためです。民間の金融機関にお金がたくさん供給されれば、それらの金融機関はそのお金をただ持っているだけでは自分たちの利益にならないので、そのお金を誰かに貸し出したり、投資したりすることで利益を得ようとします。何か事業を始めよう、もしくは広げようとする人たちにお金が貸し出されたり、投資されたりすれば、当然その分だけ経済は活性化しますよね。これが金融緩和の狙いです。

 日本ではバブル崩壊以降、経済が停滞しています。長期の不況で賃金はカットされ、失業者も増えてしまいました。最近では物価が下がるデフレも定着してしまっています。デフレは消費者の側からみれば、いろんなものの価格が下がるため、うれしいことのように感じるかもしれません。しかし事業者からみれば、デフレは価格を下げなければものが売れないことを意味するため、利益が上がらず、ひじょうに困った問題です。また、お金を貸し出したり投資したりする側からすれば、どうせものの価格が下がるのなら、利益の出にくい事業にお金をだすよりも、そのままお金を持っていたほうが有利だということになり(ものの値段が下がれば同じお金でたくさんのものが買えるようになり、お金の価値が上がる)、いろいろな事業にお金が回らなくなってしまいます。つまりデフレは、経済の活性化にとって大きな障害となるんですね。

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